黒川博行「カウント・プラン (文春文庫)」

mike-cat2006-04-21



〝あなたの隣のアブナイ人たち。
 彼らの執着が妄想に変わる時、事件は起こる。〟
計算症の青年や、ゴミ漁り、異常な色彩センスなど
ヘンな性癖と事件を絡めたミステリー短編集。
黒川博行といえば、「疫病神 (新潮文庫)」「国境 (講談社文庫)」のシリーズや、
アニーの冷たい朝 (創元推理文庫)」「キャッツアイころがった (創元推理文庫)」のシリーズ(もっともこちらは未読だが)のように、
大阪の独特の濃ゆさを味つけにしたエンタテインメントやミステリーが持ち味だが、
こちらの短編集は、肩透かし感すらやや感じさせる、淡泊な風味が特徴となる。


「黒い白髪」「うろこ落とし」は比較的正統派の短編ミステリー。
これはこれでスッと読めて、なかなかグッとくるのだが、
ヘンな性癖を取り上げた「オーバー・ザ・レインボー」「鑑」「カウント・プラン」。
中でも、推理作家協会賞受賞の表題作がやはり秀逸だ。


福島浩一は、目に入る物すべてを数えずにはいられない「計算症」患者。
節分の豆を数え、飲んだビールの数を数え、ビンの中の薬の数を数える。
もう、完全な依存症ともいえる、なかなか因果な性癖だ。
ちょっとしたつぶやきのような一節が、なかなか悲しくもおかしい。
〝本はいくら厚くてもページ番号がついているからいい〟


そんな福島の読んでいる本が、またなかなかいい。
映画化もされたスコット・B・スミスの「シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)」を読んで、
〝それにしても、この主人公の思考と行動は、どうしてこんなに杜撰なのだろう。
 これがもしおれなら、練りに練った精緻なプランで金をものにしてみせる…〟とつぶやく。
ミッチェル・スミスの刑務所サスペンス「ストーン・シティ〈上〉 (新潮文庫)」「ストーン・シティ〈下〉 (新潮文庫)」だと、
アメリカの刑務所はなぜこんなにも規律が緩いのだろう。
 おれがこんなところに収容されたら気が狂ってしまう〟と、ぶちぶちとこぼす。


そんな福島の行動と、ある企業脅迫事件が同時進行で語られる。
これがまた、なかなか興味深い。
もう一方のサイドで描かれる、刑事たちもなかなか人間くさく描かれ、
福島のちょっと異常な感じとのからみも、独特の味わいを醸し出している。


「鑑」のゴミ漁り男は、
この本が最初に出版された1996年当時ならまだしも、
いまの時代にはザラにいそうな変態だったりする。
その気持ち悪さと、事件の進行が何とも言えず、不思議な感触だ。


最初にも書いた通り、黒川博行にしては、かなり淡泊な作品ばかり。
軽妙に繰り出される肩透かしは、気持ちよくもあるが、
やはり期待しているものとは微妙にずれている感は否めない。
とりあえず、たまにはこういうのもいいな、というところ。
傑作! というほどの感慨もないのは確かだが、軽く読める作品集でもある。
ハードカバーで買うほどでもないが、文庫ならこれもよし、という感じだろうか。

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