TOHOシネマズ六本木ヒルズで「告発のとき」

mike-cat2008-06-30



アメリカが目を背けた衝撃作”
米「プレイボーイ」誌に掲載された衝撃のリポート、
「Death & Dishonor」をもとにしたイラク戦争の真実のドラマ。
監督・脚本は「クラッシュ」
ポール・ハギス
主演は宇宙人ジョーンズでもお馴染み、
「逃亡者」「ノーカントリー」のトミー・リー・ジョンズ。
共演に「モンスター」シャーリーズ・セロンに、
「デッドマン・ウォーキング」スーザン・サランドン「SONNY ソニー」ジェームズ・フランコ
「ノーカントリー」ジョシュ・ブローリン「スリーパーズ」ジェイソン・パトリックと豪華絢爛だ。


ベトナム戦争当時、憲兵を務めていたハンクのもとにある日、
イラクに従軍中のはずの息子マイクの消息を訊ねる電話がかかってきた。
実はすでに帰国していたというマイクが、無許可離隊をしたままだという。
息子らしくない行動に疑問を感じたハンクは、
フォート・ラッドの基地に向かったが、そこで判明した恐ろしい事実…
捜査に及び腰な地元警察や軍をよそに、真相を探り始めたハンクだが―


太平洋戦争からベトナム戦争、そしてイラク戦争
単純な正義のために戦うことのできた昔と違い、
何のために戦うのかの大義を失い、迷走を続ける米国。
軍産複合体と歩調を合わせるかのように、
メディアすらも報じようとしない戦争の真実が、そこには描かれる。
理想的な軍人であったはずの息子がなぜ、こんな事態に巻き込まれたのか。
イラクの場所さえ知らなかった若者たちがバグダッドで見たものは何だったのか―
米国の正義を信じていたハンクが直面する真実は、
あまりに皮肉で哀しく、そして切ない。
当代一の名優トミー・リー・ジョンズは、そんなハンクの姿を見事に演じ上げる。


信じるがまま突き進むハンクの強引さに戸惑いながらも、
捜査に当たる地元警察の刑事エミリーのドラマもいい味を出している。
男社会に押し潰されそうになるエミリーをシャーリーズ・セロンが好演し、
これまた映画そのものの厚み、深みをグッと増している。
すっかりタダのオヤジと化したジェイソン・パトリックや、
チョイ役のジェームズ・フランコはまあそこまで強烈な印象はないが、
スーザン・サランドンジョシュ・ブローリンあたりもさすがの感がある。


撮影監督はコーエン兄弟の映画でもお馴染みのロジャー・ディーキンス
陰影の使い方は相変わらず絶妙そのもので、映画に漂う哀切を強調する。
夜の砂漠に蜃気楼のように浮かぶ街の灯や、
意外な真実に打ちのめされる主人公ハンクの表情に落ちる影などなど、
場面場面の描写だけからも、哀しいまでにもどかしい戦争の真実が伝わってくる。


原題の「エラの谷」の寓話や、反旗のエピソードなど、
ここらへんの巧さもさすがポール・ハギスと感心するしかない。
すさまじく重く、そして魂を抉られるような衝撃作ではあるが、
ことし上半期屈指の傑作であることは間違いない。
必見、という言葉を何のためらいもなく使いたい、そんな作品だ。