黒川博行「悪果」

mike-cat2007-11-02



〝おまえは極道よりも性根が腐っとる〟
国境 (講談社文庫)」「疫病神 (新潮文庫)」の、
黒川博行が描く、日本警察の暗い闇…
〝かつてなくリアルに描かれる捜査の
 実態と癒着、横領、隠蔽、暴力
 ………日本警察の真実のなかに
 あぶりだされる男たちの強烈な光と闇。〟
構想10年という、2年ぶりの最新長編。
〝デビュー作から25年、黒川博行の警察ハードボイルドがここに結実!〟


大阪府警今里署のマル暴担当刑事・堀内は、
独自の才覚を生かしたシノギで、闇が蠢く警察の世界を生き抜いてきた。
地元の暴力団、淇道会が賭場を開いているという情報で、
ガサ入れを行った堀内は、賭場で逮捕された学校関係者をネタに、
新たなシノギの口を作りだそうと画策するが、思わぬ事件に巻き込まれる。
極道よりも極道らしいマル暴刑事、伊達とともに奔走する堀内だったが…


実際の警察組織について詳しくは知らない。
だが、利権と悪徳の最前線にいる刑事が、
そのまま汚職に手を染めるのは別に不思議でも何でもないし、
黒川博行横山秀夫の小説などが真実の一端を伝えているとすれば、
その腐敗ぶりは、想像を超えるレベルで複雑怪奇に入りくんでいるのだろう。


かなり強引によくいえば、清濁併せ呑んで、となるだろうし、
率直にいえば真っ黒なそんな大阪府警の姿は、とてつもなくきわどい。
幹部の腐敗は言うに及ばず、暴力団顔負けのシノギの手口で、
さまざまな利権を絡め取っていく姿は、すさまじい限りだ。
「大阪の刑事は利権と役得や。
 上も下もうまいこと立ちまわってシノギをしてる。
 それができんやつは一生、下積みのままで終わるんや」


だが、そんな刑事たちにどこかピカレスクな香りも漂うのも確かだ。
「みんな一匹狼なんですね」
「誰も餌をくれんからな。自分で探すしかない」
話しているのが刑事と知らなければ、まさしく極道者の会話なのだが、
そんな連中が不思議な格好良さを醸し出しているのが何ともおかしい。


あの大傑作「国境」「疫病神」の桑原ほどのハジケっぷりがないのは、
あくまでリアルな路線でこのストーリーを展開させたからだろうか。
「国境」の時の笑ってしまうようなムチャクチャさと、
それでいてスカッとするような爽快感には欠けるが、
どろりとした感覚が忘れられない、やたら印象的な1冊。
しかし、こんな〝リアル〟に警察組織を描いて大丈夫なんだろうか。
いらぬ心配までしたくなる、そんな作品なのである。