歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)」

mike-cat2007-05-23



〝これが現代ミステリーのベスト1です。〟
「2004年版このミステリーがすごい!」の1位に
「2004本格ミステリベスト10」の1位、
第57回日本推理作家協会賞受賞、
そして第4回本格ミステリ大賞受賞…
ミステリーの各賞を独占した、歌野晶午の代表作。
何となく読み逃していたが、文庫化を機会に読んでみることにする。


背表紙側のオビには、こんな一文が…
〝あまり詳しくはストーリーを紹介できない作品です。
 とにかく読んで、騙されてください。
 最後の一文に至るまで、
 あなたはひたすら驚き続けることになるでしょう。〟
そんなわけで、微妙にあらすじを書きづらい作品だったりする。


本当の愛を追い求める俺、成瀬将虎は、自称「何でもやったろう屋」。
白金台のフィットネスクラブに通う愛子からの依頼は、
おじいちゃんを陥れた、悪質な霊感商法「蓬莱倶楽部」の調査。
そんな折、俺は広尾の駅で自殺を図ったさくらと出逢う―


タイトルの意味から、舞台設定、キャラクターや細部に至るまで、
よくよく計算されたミステリーだな、というのが第一印象だろうか。
ところどころに挿入される回想と、異様な雰囲気を醸し出すフラッシュバック。
一見、つながりのなさそうな場面場面が、
物語の進行に連れて有機的につながり、「なるほど!」な仕掛けが明らかになる。
微妙に、「そのミスディレクションはどうよ?」的なものもあるが、
二段三段仕掛けのカラクリに踊らされ、新鮮な驚きに出会う気分は上々だ。


世界の終わり、あるいは始まり (角川文庫)」しかり、「女王様と私」しかり、
反則スレスレ、というかなかば反則に足を踏み入れているような仕掛けを読んだだけに、
こうやって後出しジャンケンで読んでみると、まあそれなりにいくつかの仕掛けは予想がつく。
だが、それでも一気読みをしてしまう秘訣は、
やはり饒舌な語り口に、物語のドラマ性、そして際立つキャラクターだろう。
主人公の将虎のキャラクターがなかなか興味深い。
〝魂が震えるような女とめぐりあいたい。
 すなわち、世俗にまみれていない女。
 金銭やモノでつながるのではなく、肉欲も越え、心と心で愛し合えるような女。
 たとえるなら、野辺に咲くタンポポのような―。
 二十一世紀のこの時代にそんな妄想を抱いているような俺である。〟
そんな〝俺〟の物語は、まさかの方向で読者を裏切り、
ただでさえサプライズの多い物語に、さらなるツイストを加えていく。


各方面で激賛、の理由は、読んでもちろん納得。
たとえカラクリがある程度見えても、楽しく読めるはずだ。
そして、すべてのカラクリが明らかになったところで、すかさず再読。
あの話はどうなってるの? この話は〜
そんな楽しみ方もまた一興の、さすがの1冊だったと思う。


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葉桜の季節に君を想うということ
歌野 晶午著
文芸春秋 (2007.5)
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