樋口有介「彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)」

mike-cat2006-10-16



〝轢き逃げ事件の謎と、
 出会う美女たちが柚木草平を悩ませる〟
講談社から1990年にハードカバーが刊行され、
93年に文庫化された人気シリーズの再録。
(といっても、この本を見かけるまでしらなかったのだが…)
樋口有介というと、「魔女 (文春文庫)」や、
最近文庫化された「枯葉色グッドバイ (文春文庫)」以来3年ぶりになる。
なかなか面白かった記憶があるのに、その後読み進めることがなかった作家だ。


元刑事の柚木草平は刑事事件を専門にするフリーライターにして、私立探偵。
バツイチで、10歳になる娘を持つ柚木は、美女に目がない、懲りない38歳。
元上司で恋人の吉島冴子から持ち込まれた事件は、女子大生・島村由美の轢き逃げ事件。
事故ではなく、計画殺人との疑惑を打ち明けられ、
調査を始めた柚木だったが、次から次に出会う美女たちに惑わされる始末に−


16年前に始まったシリーズをいまさら説明するのも不遜だが、
このシリーズの最大の魅力は、あらすじにも出てくるように、
次々と登場する美女にフラフラするダメオトコ、柚木に投影されるオトコのファンタジーだろう。
女性の視点から観れば、何とも都合のいい話だろうが、
いつまで経っても、どんな時でも、美女との出会い、そして…、
を妄想しているオトコとしてみたら、柚木の境遇はうらやましくも楽しい。


そして「俺は君の都合に合わせて人生を設計している」とか、軽々しく口にしてみたり、
「あなた、女の気持ちがわからなくて、悩むような人だったの」と尋ねられ、
「俺はいつだってそれで悩んでる。女に比べればヤクザも人殺しも、可愛いもんだ」
と、しゃあしゃあと答えてしまうような、カル〜いオトコでありながら、どこか憎めない。
だからこそ、ムシのいい話でありながら、
何とも味わい深いストーリーに仕上がっているのだろう。


そんな〝フラフラ〟を演じつつも、事件の真相に迫っていく、
軽妙な展開も、なるほど人気シリーズたる由縁といっていいはずだ。
煎じ詰めると、ミステリのオチは、だいぶご都合主義なのかもしれないが、
読んでいて、その不自然さみたいなモノは、まったく感じない。
そして、思わずニヤリとしてしまうラストの巧さ。
ダメオトコの真髄が発揮されるそのラストが、次への期待を膨らませるのだ。


90年刊の小説ということで、携帯もなかったり、
言葉遣いや設定などに時代を感じさせられたり、という部分はあるが、
いまさらながらハマってしまいそうなシリーズに出会ってしまった。
まずは創元推理文庫でこれまた再録された、
初恋よ、さよならのキスをしよう (創元推理文庫)」を買いに走らねばいけない…


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彼女はたぶん魔法を使う
樋口 有介著
東京創元社 (2006.7)
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