ジョエル・ベイカン「ザ・コーポレーション」

mike-cat2006-04-20



ちょいと前に観たばかりの映画「ザ・コーポレーション」原作本。
http://d.hatena.ne.jp/mike-cat/20060414
搾取だけにとどまらず、環境破壊にメディア操作、健康阻害…
悪の限りを尽くし、わたしたちの社会を支配する、
「企業」の手口を暴き出し、分析を加える告発本だ。


第1章の書き出しが、やはり印象的だ。
〝これまでの一五〇年間で、企業は瑣末な存在から、
 世界中で支配的な経済機関にまで成長した。
 今日では、企業が私たちの生活を支配している。
 何を食べるか、何を見るか、何を着るか、どこで働くか、何をやるかは、企業が決めているのだ。
 私たちは企業の風土、それが生み出す風景やイデオロギーに、否応なく取り囲まれている。
 〜〟
ふだん何気なく接している〝企業〟というものが、
実は何であるのか、いったいどんな性格を有しているのか、
そしてどうわれわれの生活に影響しているのか、
こうやってあらためて説明されると、自分たちが「普通」と思っているのは、
実は企業文化に飼い慣らされているから、そう思っているだけ、ということに気づく。


映画の中でも語られた、「企業」の悪行の数々を、
あらためてじっくり文字を読み返すと、その恐ろしさが強烈に迫ってくる。
たとえば、GM製の自動車が、
1台あたりわずか約6ドルのコストを節約するために、
安全性を大きく後退させた設計を施していたこと。
この試算は、車両の火災事故で一人二人死んで、補償金を払っても、という条件だ。
つまり、GMは明快に、ひとの生命よりコストを取っているのだ。


ナイキがドミニカ共和国などで行っていた搾取もものすごい。
22ドル99セントで売っているシャツにおける、労働コストはわずか8セント。
カギをつけた金属製の門の中に、武装された警備員を配置し、
その前に有刺鉄線を張り巡らせた中で、ティーンエイジャーたちを働かせるのだ。
空調もろくにせず、トイレ休憩もろくになく、水分補給もろくにさせない。
長い長い労働を終えると、こんどは性的暴行の危機が待っている。
だが、辱められ、妊娠させられると「はい解雇!」だ。
もう、ナイキ製品など何があっても買うべきじゃないな、と心に誓わせられる。


洗脳ともいえるCM構成、子供向け番組への働き掛けで、
企業に都合のいい子どもの消費行動をうながし、
未来の〝理想〟の消費者を作り出していくその手口にも寒けがする。
哲学者マーク・キングウェルの言葉が印象的だ。
「企業の見地からは、理想の市民とは、
 精神病質的な利己主義に駆り立てられている、異常なくらい貪欲な消費者です」


もちろん、第6章の「因果応報」では、
企業側に対する〝われわれ〟の勝利がいくつか挙げられている。
だが、まだまだ油断はできない。
いくつかの特例を除いて、おおむね企業は勝利しているし、
たとえ一度敗れても、企業は二の矢、三の矢を放つだけの体力があるのだ。
自分に何ができるか考えると、相当に虚しくはなるのだが、
少なくとも企業というものの本質を理解し、その中で妥協点を見つけていければ、とは思う。


というわけで、知らない(読まない)方が幸せな気もするが、
知らないで(読まないで)おくには、どうも寝心地の悪い事実(本)でもある。
強くお勧め、とは言わないが、一読の価値はある、とだけは言っておきたい。

Amazon.co.jpザ・コーポレーション