渋谷UPLINK Xで「おいしいコーヒーの真実」

mike-cat2008-06-13



“毎日の1杯から知る、地球の裏側。
 コーヒーの生まれた国、エチオピア
 あなたの知らない世界が、そこにある。”
一日あたり全世界で20億杯が飲まれるというコーヒー。
そのコーヒーをめぐる不公正な貿易システムが、
エチオピアの生産者を苦しめる、とんだからくりを暴く。
ロンドン出身のマークとニックのフランシス兄弟が、
製作・監督を兼ねて手がけた初の長編ドキュメンタリー。


WTOの価格協定が破綻して以来、
コーヒーの生産者価格は下落の一途をたどっていた。
スターバックスなどの隆盛で、コーヒー消費量は倍増しているにもかかわらず、
エチオピアの生産者たちは、限度を超えた生活苦に苛まれていた。
バリスタのコンテストなど、欧米の華やかな消費の現場と、
エチオピアの苦しい現実を対照的に映し出しながら、その矛盾を強く指摘する。


たとえばトールサイズのコーヒー。
定価が330円だとしたら、生産者に渡るのは3〜9円ぐらいだという。
輸送や店舗などのコストや、商品化での付加価値などもあるし、
中間業者がすべて悪いとはいわないが、
この数字からは、公正という言葉はとても思い浮かばない。
一日に必ず数杯は飲むコーヒー好きとしては、
無意識、またはなかば無意識のうちに荷担させられることに愕然とさせられる。


もちろん、お得な価格を過剰に求める消費者にも責任はあるだろう。
生産者への正当な報酬、代価を支払うために、
値段が50円が上がると聞いた場合、
「それが適正ならばしかたがない」と納得する消費者がどれだけいるのか。
そりゃ、お得な価格でいいものが手に入るのはうれしいが、
誰かに生産者に痛みを押しつけてまでも、激安を求める強欲さは、
極論すれば、いまの不況にだって結びつく、非常に危険な考え方である。


生産の現場では、教育の機会もなければ、飢饉をしのぐだけの食糧もない。
一方で、コーヒー価格の基準となるNY市場では、
投機家が濡れ手に粟の儲けを手にし、輸入会社も巨額の利益を生み出す。
その矛盾は、シアトルはパイクプレイスのスタバ1号店などと、
生産者たちのなけなしの努力や悲痛な叫びとの、鮮やかなコントラストを映し出す。
製作者も語っているように、別にアンチスタバの映画ではないが、
まあ、スターバックスが一切の取材を拒絶したというのもわからなくはない。


映画が強く打ち出すメッセージは、消費者は「フェアトレード」の商品を選ぶことで、
そんな不公正な状況をいくらかは改善できるということ。
ラストで映し出される、USAと印字された小麦の袋。
苦しむ生産者への施しではなく、相互の敬意を持ったフェアトレードを、と訴えかける。
メッセージはグッとこころに響いてくるドキュメンタリーだと思う。


ただ、映画としてのカタルシスにはいまいち欠ける面もある。
NHKのBS−1とかでウィークデーの11時すぎとかにやってれば、
いちばんしっくりくるような作品ではあるかもしれない。
ちなみに公式サイトでは、コーヒーの価格の内訳がシミュレーションできる、
COFFEE CALCULATORなども用意されているので、一見の価値はありだ。