スティーヴ・エリクソン「黒い時計の旅 (白水uブックス)」

mike-cat2006-02-15



ティーヴ・エリクソンが幻視する、もうひとつの20世紀。
われわれが知る現実世界と、
第二次世界大戦で、ヒトラーが勝利をおさめた世界。
虚構と現実が、ねじれた空間、そして時間枠とともに入り乱れる。
姪にして最愛の恋人でもあったゲリを自らの手にかけ、
それでもその姿を最後まで追い求めたヒトラー
そのヒトラーに、私的ポルノ小説を提供し続けるバニング・ジェーンライト。
川岸と小島を結ぶ、白髪の渡し守、生涯ホテルにこもり続けた女…
どこか幻想的なパラレルワールドで、壮大な物語が繰り広げられる。


とまあ、これが簡単なあらましというか、あらすじなのだが、
自分で書いていて、よくわからない、というのが正直な感想だ。
というか、読んでいてもよくわからない。
ヒトラーが生き残ったパラレルワールド、総統専属の米国人ポルノグラファー。
やたらと背徳の匂いが漂う、それでいてどこか惹かれる設定だ。
だが、その物語を紡ぐ筆遣いは、大胆なまでに複雑といっていい。


まずは前述した時間軸、空間軸のねじれだ。
ひとつの物語が、現在と過去を行き交いながら語られるのではない。
ふたつのパラレルワールドが、同じ時間軸ではなく、違う時間軸で絡み合う。
そしてもちろん、空間などは当たり前のようにアトランダムに繋がり合う。
どこかの川に浮かぶ小島の現在と、ヒトラーが生き残ったウィーンの過去、
ヨーロッパ大陸から、ユカタン半島を縦断し、気づくとNYの街並みを眺めている。


こんな複雑な物語が、何人かの視点を唐突に切り替えながら、
語られるのだから、読んでいる方としてはもう、たまったものではない。
あげくに、〝お前〟〝彼〟の指す誰かも、あまり明確に語られないので、
気づくと誰が誰に対して、どこで何を語っているのか、全然わからなくなるのだ。
何度もページを遡り、「いったい何の話をしていたのか?」と、
思い出しながら読むから、やたらと疲れるし、物語にも入っていけない。
ひとつひとつの場面を取ってみると、面白いとは思うのだが、
それが積み重なると、何だかよくわからないモザイク模様のようにしか思えなくなる。
結局読み終わっても、「何が言いたかったのか、ようわからん…」状態のままだった。


普通なら訳文が悪いのかな、という方向で納得するところだが、
この作品を訳したのはオースターなどで知られる柴田元幸である。
その上、日本初上陸の際には(一部で、だが)センセーションを呼んだ作品だという。
そういう状況を鑑みると、
単に僕の読解力不足が露呈してくるのだが、まあそれでも構わない。
もう一回、正直に言う。この小説、よくわからない。


散々時間をかけて読んだのだが、なんか時間の無駄だったような気が…
いつの日か、もっと読解力がついたら読んでみたい気もするが、
たぶんもういい歳だし、脳味噌の成長も見込めないのは自明の理。
このまんまさようなら、ってトコで決着がついてしまうのだろうな、と思う。
まあ、それでも構わないのも確かだ。こういう苦しい読書は、少なくともしばらくは勘弁だ。