梅田ナビオTOHOプレックスで「タブロイド」

mike-cat2006-02-14



「大いなる遺産」「天国の口、終わりの楽園
そして「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」を監督した
アルフォンソ・キュアロンが製作にあたり、
主演は近年すっかり怪優としての地位を築きつつある、
ジョン・レグイザモ(「ロミオ&ジュリエット」「ムーラン・ルージュ」)。
さらに共演は「トーク・トゥ・ハー」の眠れる美女レオノール・ワトリング
連続殺人犯を追う、野心に溢れたTVジャーナリスト、
という設定にやや引っかかりはあるものの、
このメンツが揃ったら観ないわけにはいかないだろう。


赤道直下に位置するエクアドル
その田舎町ババオヨで起きた子どもばかりが狙われる連続殺人。
〝モンスター〟の異名通り、拷問、レイプの末の殺人を繰り返す犯人を追い、
マイアミから取材に訪れたTVジャーナリスト、マノロ=レグイザモは取材中に偶然、
子どもの事故をめぐって生じた集団リンチの場面に出くわす。
誤解から刑務所に収容されたリンチの犠牲者にインタビューを試みたマノロは、
謎めいた男、ビニシオ=ダミアン・アルカザールから、
〝モンスター〟に関する、ある情報を耳にする。
それは、犯人〝モンスター〟しか知り得ない、特別な情報だった−。


野心に溢れたジャーナリスト、それもTV屋さん、といえば相場は決まっている。
センセーショナリズムとスキャンダリズムにまみれ、
真実を声高に主張する割には、容易に事実をねじ曲げ、
ニュースをあくまでも商品として仕立てる、番組製作者だ。
つまり、そこにはジャーナリズムは存在しない。
まあ、ジャーナリストを名乗る輩は、テレビに限らずそういうものだが、
大きなオカネが生じる商品としての縛りが強い分、TV屋さんというのはその傾向が顕著だ。


ノロが映像素材を提供するのは、
マイアミを拠点とするテレビ局の犯罪実録モノ番組。
だから当然、リンチを目の前にしても、十分な素材を手にするまでは助けもしない。
だから当然、〝モンスター〟の情報が耳に入れば、スクープのためには何でもする。
犯人かも知れないビニシオに取り入り、警察を欺き、捜査をかき回す。
そう、日本の報道合戦で見られるような、
取材対象との距離感を見誤った過剰な取材攻勢を仕掛けていく。


その、スクープに魅せられたマノロの暴走ぶりは、
〝モンスター〟の抱える心の闇以上に、ある意味手に負えない結果を導き出す。
しかし、その結果には決して責任を持とうとしないあたりも、
よくあるメディアの暴走とまったく同じだ。
それでも、民衆はブラウン管に映る虚像に騙され、マノロを英雄視する。
これもまた、世間でよくみられる現象そのものだ。


つまり、この作品は、ある異常殺人を通じて描いたメディア批判だということだ。
ものすごく単純な視点だが、そうとしか言いようのない、作品なのだ。
ノロの暴走が招いた結果は、あまりに救いがなく、後味が悪い。
それは、報道被害、というレベルを凌駕して、
メディアの思い上がりがもたらす危険を、厳しく指摘している。


しかし、ただ指摘するだけだ。正直、この題材っていまさら…の感は強い。
この映画を観てショックを受ける人って、そんなにいるのだろうか。
メディアに対して、このいまどきそこまで信頼を寄せている人もそういないだろう。
僕自身、「ああ、TV屋さんって、こんなもんだよね」というのが率直な感想だ。


南米独特の、厭世観やリアリズム、諦観みたいな部分で独特な味わいはあるが、
サスペンスとしての緊張感や、底知れない暗いパワーみたいなものは、どこかもの足りない。
これだったら、ジョン・カッツェンバック原作で、
ショーン・コネリーローレンス・フィッシュバーン出演で映画化された
理由 (上) (講談社文庫)」「理由 (下) (講談社文庫)」の方がはるかにグッとこころに迫る。
DVDはこちら→理由
メディアの暴走、という視点は薄いが、
ジャーナリストの思い込みがもたらした功罪という意味でははるかに衝撃度が強い。


見どころのひとつでもある、俳優陣に目を移すと、
レグイザモやアルカザールの演技はやはり迫力があるけど、
それだけで引っ張るには、どうも微妙にストーリーにパンチが欠ける気がする。
紅一点のレオノール・ワトリングも、
トーク・トゥ・ハー」の時の無垢な輝きとはひと味違う、
ちょっと突かれた人妻を演じるが、やはりどこか魅力に欠ける印象は否めない。


どうにも消化不良な印象を残しつつ、
きわめて後味の悪い場面をラストに、映画はエンドロールに移る。
「何だかなあ…」と思いつつパンフレットを眺めると、
日本のTVリポーターが(ほぼ)無反省に、この映画を語っていたりして、
これまたけっこうムッときてしまう。つくづく思い上がった連中だな、とあらためて実感。


もちろん、作品を通して不満のみ、ということもない。
どこか硬質でありながら、強烈な湿気を感じさせるカメラワークとか、
場面場面の演出では、何となく気になる部分もあったのも確かだったりする。
監督のセバスチャン・コルデロの次回作は〝Manhunt〟
ハリソン・フォード主演で、エイブラハム・リンカーン暗殺の犯人を追う、サスペンスだという。
とりあえず、この監督を評価するのは、その作品を観てからでも遅くないかな、と。
そんなことを考えつつ、バレンタインデーににぎわう街を後にしたのだった。
というか、バレンタインデーにこんな映画観るなよ、というのが一番だな…