マイクル・コナリー「暗く聖なる夜(上) (講談社文庫)」「暗く聖なる夜(下) (講談社文庫)」

mike-cat2007-04-17



〝ハードボイルド最高峰!〟
週刊文春の2005年ベスト1、このミス2006年版2位、
各方面で絶賛の嵐となった、ハリー・ボッシュ・シリーズ第9作。
前作「シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)」でLAPDを退職し、私立探偵となったボッシュが、
在職中に未解決に終わった殺人事件の捜査に当たる。


ハリウッド署の刑事を辞し、私立探偵となったハリー・ボッシュ
悠々自適のはずの引退生活に、どこか物足りなさを覚えたボッシュは、
未解決に終わり、心残りとなっていたある事件の調査を始めた。
ハリウッドの映画製作現場で働いていた、若い女性の死体、
そして、その捜査中に起こった、現金強奪事件。
だが、過去を探り始めたボッシュに対し、
LAPDだけでなく、FBIからも激しい圧力がかかるのだった―


〝心に刻まれたものは決して消えない〟
シリーズで初めて〝わたし〟という一人称で語られる物語は、
警察を退いて間もないボッシュの、内面の葛藤から、幕を開ける。
〝鼓動が聞こえ、自分がなにをしなければならないのか、わかり、理解する。
 自分の使命を悟り、顔を背けることも、背を向けることもできぬことを知る。
 そしてそうしたときに、心に刻まれたものは決して消えないことを悟るのだ。〟


警察を退いたものたちは、潤沢な年金を元手に、
誰もがカリフォルニア北部やネヴァダ、メキシコに隠遁する。
しかし、ボッシュはLAに残った。
〝いまのわたしは引退した警官だ。快適な引退生活を送るはずだった。
 ローンを払い追えた家があり、現金で買った車がある。
 生活費として必要とする以上の年金をもらっている。
 まるで休暇を取っているようなものだ。
 仕事はなく、心配事もなく、なんの問題もない。
 だが、なにかが欠落しており、心の奥底で、わたしはその正体がわかっていた。


刑事という仕事が染み付いたボッシュにとって、安息は捜査の中にこそある。
そんなボッシュの脳裏に焼きつけられた、ひとつの光景。
絞殺され、陵辱された、24歳のアンジェラ・ベントンの、差し上げられた両手だ。
〝あたかもだれかに向かって手を伸ばしているかのように。
 なにかを欲して、懇願しているかのように。
 ルネッサンスの絵画で描かれる手の表現に似ていた。
 地獄に落とされた者が、許しを乞うて、天に向かって伸ばす両手のようだった。
こころに刻まれたその残像を振り払うべく、ふたたびその使命感を燃やす。
その姿はまさしく〝解決しそこなった事件が頭から離れないでいる刑事〟なのである。


そんなボッシュの姿は、かつての刑事時代と何ら変わりはない。
むしろ、警察内のいざこざに悩まされていた時代と比べ、
より本来のボッシュらしさが研ぎ澄まされたような印象すら覚える。
「トランク・ミュージック」で登場した、FBIのロイ・リンデルが再登場し、ボッシュについてこう語る。
「いつだって自分の欲しているものを探しているんだ。
 この男はいつだって私立探偵なんだ。バッジを持っていたときもな」
そう、私立探偵こそ、ある意味ボッシュの天職であったのかもしれない。


ストーリーの緊迫感、そして絶妙のツイスト、
そして、ルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」が響く、皮肉で美しい物語世界。
傑作揃いのシリーズでも、ナンバー1との呼び声は、決して誇張ではないと思う。
このシリーズの実力を、あらためて思い知らされる、そんな素晴らしさだ。
未読分はいよいよ、既刊ではあと1作となってしまい、やや寂しくもあるのだが、
毎度ながら「早くつづきが読みたい!」と思ってしまうのだった。


Amazon.co.jp暗く聖なる夜〈上〉暗く聖なる夜〈下〉


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

暗く聖なる夜 上
マイクル・コナリー〔著〕 / 古沢 嘉通訳
講談社 (2005.9)
通常2-3日以内に発送します。
暗く聖なる夜 下
マイクル・コナリー〔著〕 / 古沢 嘉通訳
講談社 (2005.9)
通常2-3日以内に発送します。