シネリーブル梅田で「ママの遺したラヴソング」

mike-cat2007-04-16



〝新しい出会い、新しい生活。私は、ゆっくりと歩き出す〟
ロナルド・エヴェレット・キャップスによる同名原作、
ママの遺したラヴソング」にほれ込んだシェイニー・ゲイベルが、
自ら脚本化、4年の歳月を経て初監督作として送り出した労作。
主演に「パルプ・フィクション」ジョン・トラヴォルタと、
「ロスト・イン・トランスレーション」「真珠の耳飾りの少女」スカーレット・ヨハンソン


長年音信不通だった母、ロレーンの訃報を受け、ニューオーリンズの母の家を訪れたパーシー。
だが、その家には自堕落に暮らす、見知らぬアル中の男2人が住み着いていた。
母の友人でもあった2人は、大学の元教授のボビー・ロングと、その元教え子で作家のローソン。
遺言では、家はその2人とパーシーに遺されていた。
2人に反発を覚え、一度は家を後にしたパーシーだが、
母が遺した本を手に取るうちに、知ることがなかった母の人生に興味を持つ。
奇妙な共同生活を始めたパーシーとボビー・ロング、ローソンだったが、
いつしかその孤独で傷ついた魂は、家族のように惹かれ合っていくのだった―


このところ「デジャヴ」「オール・ザ・キングス・メン」と、
ニューオーリンズを舞台にした映画の日本公開が続いているが、
どちらも撮影はハリケーン・カトリーナ以後の作品だった。
しかし、この作品の撮影はハリケーン以前。
昔ながらのフレンチ・クオーターを始めとする、のどかで賑やかなニューオーリンズの光景が印象的だ。


トラヴォルタ演じるボビー・ロングが、酒瓶を片手に、とぼとぼと墓地に向かう冒頭の場面。
フレンチ・クオーターだけではない、ニューオーリンズの街並みが次々と映し出される。
その目に鮮やかな眩しい映像だけで、いきなり物語世界に引きずり込まれる感がある。
もちろん、ニューオーリンズの夏の澱んだ暑さたるや、ある種の苦痛にも等しいし、
貧困地域もそこら中にある。何もかもがバラ色の土地だというつもりはない。
だが、それも込みで、撮影監督のエリオット・デイヴィスは、
ニューオーリンズの街を美しく、そして魅力的に描き出す。
アラン・ルドルフやスティーヴン・ソダーバーグ作品を手がけてきたエリオットだけに、
その文学的な映像は、思わずうなってしまいそうな、輝きにも満ちている。


そんなニューオーリンズを舞台に、魅力あふれる主人公を演じるのが、トラヴォルタとヨハンソン。
脚本の甘さがやや気になるこの作品だが、この絶妙なキャスティングがその弱点をカバーしている。
過去を引きずり、だらけた毎日を送るアル中の老人ボビー・ロング。
かつてはアラバマ州オーバーンの大学で名声を得ていた文学部教授。
モリエールやT・S・エリオット、ロバート・フロストを次々と引用する才人。
甘いマスクと耳をくすぐる甘い歌声、そしてチャーミングな人柄の一方で、
精神的な不安定さも目立つ、自由気ままで破綻した人物。
心の傷をさらけ出し、周囲に当たり散らすこともあるそんな複雑な人物に、
トラヴォルタの類い希なる魅力が、うまいことハマり、作品そのものの破綻を防ぐ。


そのボビー・ロングに、「レッドネック・リヴィエラ」と貶された、
フロリダ州パナマシティで、これまた未来のない生活をつづける18歳のパーシー。
黄金の花を咲かせるパースレーン(スベルヒユ)を名の由来に持ちながら、
学校にも行かず、ろくでなしとトレーラーで暮らすパーシーが、
ボビー・ロングたちとの出会いで徐々に変わっていく様は、グッとくるドラマに仕立て上げられている。
パーシーの最初のすれっからしぶりは、ヨハンソンの真骨頂という感じでなかなかにいい。
自慢の巨乳をやたらと強調するのには参るのだが(あの鳩胸巨乳はちょっと…)、
うまくキャラクターにハマり、さらにその魅力を膨らませているような印象だ。
さすが、若手屈指の演技派、と納得の演技ぶりなのである。


ストーリーの大きなカギとなるのは、カーソン・マッカラーズ「こころは孤独な狩人」
恥ずかしながら読んだことがないもので、いまひとつ入っていけない面はあるのだが、
あらすじだけでも読んでみると、なるほど、孤独な魂に食い込んでいくる理由はよくわかる。
どうも入手困難らしいが、いつか読んでみたいな、と思う次第でもある。


作品そのものとしては、前述の通り、甘さもだいぶ残る。
独特ののんびりしたリズムで進むのは、味わい深くもあるが、
作品のテンポの緩急が、必ずしも適当でないんじゃないか、と思う部分も。
どこか駆け足すぎる部分もあれば、不必要にたっぷりと描かれる部分もある。
俳優の名演に助けられているが、セリフがどこか陳腐に聞こえる場面も散見する。
ただ、そんな弱点を踏まえても、やはり観終わっての余韻はかなり悪くない。
忘れ難い、まではいかないが、どこか記憶に残りそうな作品なのである。