マイクル・コナリー「終決者たち」

mike-cat2007-09-15


終決者たち(上) (講談社文庫)」「終決者たち(下) (講談社文庫)


〝復職刑事、迷宮難事件に挑む!
 ロス市警にハリー・ボッシュが戻ってきた。
 未解決事件を追う“クローザー=終決者”として。〟
ハリー・ボッシュ・シリーズ待望の最新第11作が登場。
一度は私立探偵となったボッシュが、再び市警に帰ってきた。
〝なぜ事件は闇に葬られたのか?
 17年前に起きた女子高校生殺人事件。
 警察の汚点と真犯人をボッシュの執念があぶりだす。〟
迷宮入り事件にボッシュに、再び旧敵が立ちはだかる―


3年間の私立探偵暮らしに区切りをつけ、LAPDに復職したボッシュは、
市警本部のエリート部署、未解決事件班に配属され、
かつての相棒キズ・ライダーとともに、迷宮入り事件に挑むことになった。
勝敗のかかった九回裏に投入される、クローザー=終決者として…
復職当日からさっそく取りかかったのは、17年前の少女殺人事件。
DNAの証拠から浮かび上がった人物に迫るボッシュたちだったが、
その前に再びあの男が立ちはだかり、圧力をかけてきたのだった―


期待にたがわぬ面白さである。
相変わらずの高い水準を保ちつつも、その新鮮さは失わない。
再びLAPDの刑事として、バッジと銃を手にしたボッシュだが、
渇望にも似た事件解決への執念が、より純化された形で表出する。
山のような数の未解決事件の調書を前に、ボッシュは思う。
〝この街の恐怖カタログを見ていると、よく知っている力が自分をとらえ、
 ふたたび血管のなかを動き始めるのを感じた。〟
そして、それはこんな感覚でもある。
〝放蕩息子の帰還にも似て、自分が本来の場所にもどってきたのがわかった。〟


しかし、そんなボッシュの前に再び登場するのが、
あの、かつての内務調査班の怪物、アーヴィン・アーヴィングだ。
「きみは自分が何者かわかっているのかね、ボッシュ
 きみは再生タイヤだ」とのたまうアーヴィングは、
ボッシュがへまをやる(ファック・アップ)ことを待ち望み、
その陰湿な目をボッシュたちの捜査に投げかけてくる。
いまも変わらぬLAPD内部の敵に、新生ボッシュはどう立ち向かうのか―
新米刑事としてのボッシュの立場が、かつてとは違う戦いを強いる。


これ以上は、はっきりいって説明などいらないだろう。
というか、この時点でももう説明し過ぎといえばそうなのだが、
訳者あとがきで古沢嘉通も書いている通り、
オビすら一切目に入れず、ただただ本文から読み始めるのみ、である。
冒頭からクライマックスまで、一時たりとも、
ページをめくる手を止めたくなくなるような興奮に満ちた傑作だ。
最近ようやくこのシリーズにはまった新参者がいうのも何だが、
やはりハリー・ボッシュは当代最高の警察ミステリだな、と再確認できる。


マイクル・コナリーの次作は、シリーズ外の「The Lincoln Lawyer」だそうだ。
これももちろん楽しみなのだが、シリーズ12作目の「Echo Park」も待ち遠しい。
楽しませてくれる代わりに、つくづく悩ましかったりもするシリーズなのでもあった。


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