マイクル・コナリー「シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)」
〝犬が咥えてきた骨は少年の身体の一部だった......。
悪夢の事件に孤高の刑事ボッシュが敢然と立ち向かう。〟
コナリーによるハリー・ボッシュ・シリーズもいよいよ第8弾。
シリーズにおいても大きな転換点となる1作でもある。
犬が発見した約20年前の遺骨をきっかけに、
またもボッシュが面倒な事態に巻き込まれていく。
始まりは、ロサンジェルスの丘陵地帯からの通報だった。
犬がくわえてきたその骨は、推定死亡時期の約20年前という子どもの人骨。
死因は鈍器による殴打。だが、その骨に残されていた痕跡は、それだけではなかった。
捜査に乗り出したハリウッド署の刑事ボッシュだが、事件の捜索は思わぬ方向へ。
またも窮地に陥ったボッシュは、ついに大きな決断に踏み切る―
世界は悲しみにあふれている…
そんな言葉を思い出してしまうような、シリーズでも屈指の切ない物語だ。
新人警官ジュリアとのロマンスを織り交ぜながら描かれる、
ボッシュの人生の転機は、やるせない哀しさをじわじわと醸し出す。
タイトルの「シティ・オブ・ボーンズ」、つまり〝骨の街〟はそのものLAを指す。
散らばった骨を捜索する発掘チームが、現場につけた名前、それは〝骨の街〟
「ボーン・コレクター」で有名になったグリッド検索の図は、街の地図を思わせる。
ボッシュはつぶやく。「すべての殺しに街の物語がある」
二十四時間眠らない「骨の街」LAに横たわる、悲しい物語にボッシュはもの思う。
時を同じくして発見された、9000年もの間タールの中に沈めらていれた、頭蓋骨。
どんな時代にも途切れることのなかった悲しみが、ボッシュのこころをさいなむ。
事件解決への絶対的な使命感の一方で、忍び寄る虚無感にも侵されるボッシュ。
「長い目で見ればなんの意味もないことかもしれない。
自爆テロがニューヨークを襲い、三千人が朝のコーヒーも飲み終わらないうちに死んだ。
ひと組の小さな骨が過去に埋められたことに、なんの意味があるんだろうか」
尽きることのない疑問が、次々と頭の中に浮かんでいく。
そんな時でも、相も変わらず政治的な動きばかりが至上命題のLAPD。
黒々とした警察内での駆け引きにボッシュの気持ちは、次第に変化していく。
〝それ〟がなければ道を見失うはず、と信じてきたものにも、疑問が生じる。
〝それがあるがために、道に迷うかもしれない。
もっとも必要だと考えていたものこそが、
ボッシュの周囲に虚無感の帳を降ろすものだった。〟
読む者にも虚無感にも近い余韻を残し、物語は急展開で幕を閉じる。
そして、いよいよ、2006年版の週刊文春1位、「このミス」2位の傑作、
「暗く聖なる夜(上) (講談社文庫)」「暗く聖なる夜(下) (講談社文庫)」を迎えることとなる。
新しい物語に踏み出すボッシュのその後、もう気になって仕方がない。