マイクル・コナリー「シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)」

mike-cat2007-04-03



〝犬が咥えてきた骨は少年の身体の一部だった......。
 悪夢の事件に孤高の刑事ボッシュが敢然と立ち向かう。〟
コナリーによるハリー・ボッシュ・シリーズもいよいよ第8弾。
シリーズにおいても大きな転換点となる1作でもある。
犬が発見した約20年前の遺骨をきっかけに、
またもボッシュが面倒な事態に巻き込まれていく。


始まりは、ロサンジェルスの丘陵地帯からの通報だった。
犬がくわえてきたその骨は、推定死亡時期の約20年前という子どもの人骨。
死因は鈍器による殴打。だが、その骨に残されていた痕跡は、それだけではなかった。
捜査に乗り出したハリウッド署の刑事ボッシュだが、事件の捜索は思わぬ方向へ。
またも窮地に陥ったボッシュは、ついに大きな決断に踏み切る―


世界は悲しみにあふれている…
そんな言葉を思い出してしまうような、シリーズでも屈指の切ない物語だ。
新人警官ジュリアとのロマンスを織り交ぜながら描かれる、
ボッシュの人生の転機は、やるせない哀しさをじわじわと醸し出す。


タイトルの「シティ・オブ・ボーンズ」、つまり〝骨の街〟はそのものLAを指す。
散らばった骨を捜索する発掘チームが、現場につけた名前、それは〝骨の街〟
ボーン・コレクター」で有名になったグリッド検索の図は、街の地図を思わせる。
ボッシュはつぶやく。「すべての殺しに街の物語がある」
二十四時間眠らない「骨の街」LAに横たわる、悲しい物語にボッシュはもの思う。


時を同じくして発見された、9000年もの間タールの中に沈めらていれた、頭蓋骨。
どんな時代にも途切れることのなかった悲しみが、ボッシュのこころをさいなむ。
事件解決への絶対的な使命感の一方で、忍び寄る虚無感にも侵されるボッシュ
「長い目で見ればなんの意味もないことかもしれない。
 自爆テロがニューヨークを襲い、三千人が朝のコーヒーも飲み終わらないうちに死んだ。
 ひと組の小さな骨が過去に埋められたことに、なんの意味があるんだろうか」
尽きることのない疑問が、次々と頭の中に浮かんでいく。


そんな時でも、相も変わらず政治的な動きばかりが至上命題のLAPD。
黒々とした警察内での駆け引きにボッシュの気持ちは、次第に変化していく。
〝それ〟がなければ道を見失うはず、と信じてきたものにも、疑問が生じる。
〝それがあるがために、道に迷うかもしれない。
 もっとも必要だと考えていたものこそが、
 ボッシュの周囲に虚無感の帳を降ろすものだった。〟


読む者にも虚無感にも近い余韻を残し、物語は急展開で幕を閉じる。
そして、いよいよ、2006年版の週刊文春1位、「このミス」2位の傑作、
暗く聖なる夜(上) (講談社文庫)」「暗く聖なる夜(下) (講談社文庫)」を迎えることとなる。
新しい物語に踏み出すボッシュのその後、もう気になって仕方がない。


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