マイクル・コナリー「天使と罪の街(上) (講談社文庫)」「天使と罪の街(下) (講談社文庫)」

mike-cat2007-04-24



〝現代ハードボイルドの第一人者
 コナリーが描く壮大なサスペンス〟
ついにたどり着いてしまった、ハリー・ボッシュ・シリーズの最新刊。
名残惜しくもあり、取っておきたい気持ちもあるのだが、
やはり、読みたい気持ちを抑えることはどうしてもできない。
あの「ザ・ポエット」の連続殺人犯が再登場、
ハリー・ボッシュと対決する、というゾクゾクするような物語だ。


元LAPD刑事の私立探偵、ボッシュのもとに新たな依頼が舞い込んだ。
それは、かつてパートナーだった〝あの男〟の不審死に関する調査だった。
さっそく手がかりを追い始めたボッシュは、元相棒のファイルに奇妙な写真を発見する。
一方、〝詩人(ポエット)〟事件で左遷の憂き目に遭った、FBIのウォリング捜査官は、
ネヴァダ州で発見された大量の他殺体の現場に、突然の呼び出しを受ける。
それは、公式には死んだことになっていたはずの〝詩人〟の再浮上。
そしてFBIの捜査に、ボッシュの調査が絡み合うとき、捜査は新たな展開を見せていく―


原題は〝THE NARROWS〟。
1年の大半の期間、たんなる小川でしかない〝狭い川〟ロサンジェルス川。
〝だが、ひとたび暴風雨がやってくると、蛇を目覚めさせ、力を与える〟
そこは、近づいてはいけない危険な領域。
「おれがガキのころ、あそこをナローズ(狭い川)と呼んでいた。
 いまみたいな雨がふると、川の流れは急になった。
 雨がふったら、ナローズには近づいてはいけないんだ」
闇に消えたはずの〝詩人〟が甦った、天使と罪の街。
そこはボッシュにとって、近づいてはならないナローズ(狭い川)だった。


コナリー作品でももっとも危険な異常殺人鬼でもある〝詩人〟。
捜査のすべてを知り尽くした〝詩人〟が、またしももウォリング捜査官に迫る。
そこにボッシュが絡んでくるのだから、作品として面白くないわけがない。
もちろん、毎度のことながら、捜査は一筋縄ではいかない。
最強の敵〝詩人〟の恐ろしい罠をかいくぐる必要はもちろんのこと、
かつてはLAPD内の権力闘争に悩まされていたボッシュは、
こんどはFBIの強引で傲慢なやり口に、煮え湯を呑まされることになる。
前作に続き、バッジを失ったことに対する不都合や葛藤を抱えつつ、である。


前作で明らかにされた、ボッシュの〝新しい希望〟も、物語に大きく関わってくる。
何があっても失いたくないものを手にしたボッシュは、さまざまな意味で〝変化〟する。
それは、ボッシュと、世界との関わりそのものを変えていくのだ。
だからこそ、悪しき世界の象徴でもある〝詩人〟へと立ち向かっていくボッシュ
壮大なボッシュ・サーガの大きなクライマックスのひとつであるともいえるだろう。


物語の圧倒的なパワーに浸り、絶妙のツイストに転がされる感覚は、まさに至高の読書体験。
シリーズ10作目にして、ますます魅力を増していくことに、ひたすら感心するばかりだ。
ようやく追いついたばかりだが、次回作〝THE CROSERS〟が楽しみでならない。
このシリーズのレビューでは、つねに同じことばかり書いているが、正直それしかない。
やめられない、とまらない。懐かしいフレーズを思い出しながら、本を閉じたのだった。


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天使と罪の街 上
マイクル・コナリー〔著〕 / 古沢 嘉通訳
講談社 (2006.8)
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天使と罪の街 下
マイクル・コナリー〔著〕 / 古沢 嘉通訳
講談社 (2006.8)
通常2-3日以内に発送します。