大沢在昌「闇先案内人〈上〉 (文春文庫)」「闇先案内人〈下〉 (文春文庫)」

mike-cat2005-06-09



第二十回日本冒険小説協会大賞(2001年作品)受賞作品。
前年も「 心では重すぎる」で受賞するなど、ノリにノってる頃の作品だ。
文春文庫ならハズレもなかろうと、いつも通りの理屈で手に取る。


主人公は「逃がし屋」の葛原。
ヤクザから、社会から、そして警察から逃げ続ける逃亡者たちを、
独自のルートで高飛びさせる、非合法の裏稼業だ。
不正融資がきっかけで、ヤクザに取り込まれた銀行員や、
滅多にないが、時にはヤクザそのものも逃がす。
ルートは、フィリピン、香港、台湾などなど…。
料金は高いが、決して失敗はしない。まさに、プロ中のプロの仕事だ。


ほかのメンバーは、ドライバーに鉄道オタク、美容院のママ。
見た目には、いかにもごく普通の人たちだ。
いずれも市井の人々を装いながら、専門分野で仕事をこなす。
〝ふつうの人間にはない傑出した能力をもっていて、
 それをチームとして併せたとき、プロとして最高の仕事が生まれるのだ〟
そう、まさに、ハードボイルドの世界だ。
そんな葛原たちを、ある日警察庁のエリート官僚、河内山が訪れる。
過去を材料に、葛原を脅し、〝仕事〟を押しつける。
極秘来日している、近隣の全体主義国家の指導者の息子を探して欲しい。
葛原の向こうを張る逃がし屋に、ヤクザ、警察、そして全体主義国家のスパイたち。
様々な陰謀がうずまく中、無法地帯さながらのチェイスが始まった。


とまあ、あらましを書いているだけでワクワクするような、エンタテイメントの王道だ。
葛原の人物描写も見事だし、硬直した警察組織に悩む女性警官・咲村、
そして、葛原の商売敵となる「逃がし屋」にいたるまで、
魅力的なキャラクターが続々と登場する。
ヒロインだから、というわけでもないが、咲村の人物像も秀逸だ。
公安から警護に流れた経緯を持つ、〝真っすぐ過ぎる〟咲村が、
本来は犯罪者である葛原とこころを通わせていく。
ここらへんだけでも、ホントうまい。


もちろん、全体主義国家は、例の首領さまの国がモデルだから、
連中の手口はとことんえげつない。
読んでいて、気分が悪くなるような描写もあるし、
現実の例の首領さまの国のこととかが思い浮かぶと、不快感もある。
だが、そんなマイナス部分も、物語そのもののダイナミズムが吹き飛ばす。
読み応えは、もう十分すぎるほど。進行のテンポも申し分ない。
文庫の上下巻、残りページはあっという間になくなっていく。


続編は出ているのだろうか? と気になってしまうこの作品。
大沢作品は数が多すぎて、続編を探すのはどうにも大変そうだが、
探すだけの価値はあるかもしれない。