ディーン・クーンツ「ハズバンド (ハヤカワ文庫NV)」

mike-cat2007-05-02



〝クーンツの新たな傑作!〟
ウォッチャーズ〈上〉 (文春文庫)」「ウォッチャーズ〈下〉 (文春文庫)」など、
数々の傑作を世に送り出したモダンホラーの巨匠が贈る、
〝予測不能の「愛」のサスペンス小説〟
ツイストに次ぐツイスト、ジェットコースターのような感覚。
〝誘拐された妻を救おうとする男に次々と危機が!〟


造園業を営むミッチのもとにかかってきた1本の電話。
それは、最愛の妻ホリーを誘拐した、という犯人からの、悪魔の報せだった。
身代金は200万ドル。払えるはずのない法外な金額に、ミッチは愕然とする。
そんな戸惑うミッチの目前で展開された、まさかの惨劇―
不条理な犯人の要求に、執拗な警察の追及…
次々と降りかかる災難の中、ミッチはホリーを救うことができるのか。


いかにもクーンツらしい、序盤からグッと引きこまれる展開だ。
突然襲いかかる、不条理そのもののシチュエーション。
平凡な男に対し、犯人がつきつけた要求は200万ドル。
「頼む、聞いてくれ。ぼくは庭師なんだ」
「知ってるさ」
「銀行にあるのは一万一千ドルそこそこだ」
「知ってるさ」
〝犯人たちは頭がおかしいとしか思えない。妄想だ。
 連中の計画は、まともな人間には理解できない。狂気じみた空想にもとづいている。〟
そんな言葉があるかどうかはともかく、〝ただの誘拐〟ではないのだ。


ここからストーリーは一気にアクセル全開。
目の前でとんでもない事件が起こったかと思えば、警察はその犯人としてミッチに目をつける。
ただでさえどん底のミッチは、ますます追いつめられていく、という展開。
身代金すら準備できない状況に、苦しむミッチ。
だが、ここからがこれまたいかにもクーンツらしい〝愛の万能主義〟が幕を開ける。
〝ホリーを救うのは金ではないとミッチは気づいた。ホリーを救えるのは自分だけだ。
 ミッチの不屈の精神、ミッチの才知、ミッチの勇気、ミッチの愛だけが。〟
時にハーレクイン・ロマンスをも彷彿とさせる(といっても読んだことないが…)、
クーンツ流のベタ甘なロマンス要素を織り交ぜながら、
読者の乗ったジェットコースターは急降下とツイストを繰り返す。
あとは、流れに身を委ね、ラストまで一直線、というお馴染みのスタイル。
スーパーナチュラルな要素こそないものの、往年のクーンツを思わせる作品だ。


過去の名作群からすると、パワー不足の感は否めないし、
正直なところ、後半からラストにかけて、やや失速しているような印象も強い。
それでも、次々と繰り出すツイストには、思わず「おっ、そうくるのか!」という感じ。
〝新たなる傑作〟は明らかに誇張が過ぎるにしても、
クーンツのファンなら、いい意味での既視感とともに、楽しく読める1冊ではあると思う。
ただ、まだクーンツを読んだことがない読者にはお勧めしたくない。
「ウォッチャーズ」か「ストレンジャーズ」か「ファントム」あたりを読んで、
さらに文春文庫で出ているあたりを押さえて、さらに読みたい、と思ったら、の作品。
つまり、クーンツ作品ではベスト10に入るか、入らないか、程度ということだ。
褒めてるのか、貶してるのか、相変わらず微妙だが、まあそこらが率直な感想だ。


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ハズバンド
ハズバンド
posted with 簡単リンクくん at 2007. 4.30
ディーン・クーンツ著 / 松本 依子訳
早川書房 (2007.4)
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