ディーン・クーンツ「ハズバンド (ハヤカワ文庫NV)」
〝クーンツの新たな傑作!〟
「ウォッチャーズ〈上〉 (文春文庫)」「ウォッチャーズ〈下〉 (文春文庫)」など、
数々の傑作を世に送り出したモダンホラーの巨匠が贈る、
〝予測不能の「愛」のサスペンス小説〟
ツイストに次ぐツイスト、ジェットコースターのような感覚。
〝誘拐された妻を救おうとする男に次々と危機が!〟
造園業を営むミッチのもとにかかってきた1本の電話。
それは、最愛の妻ホリーを誘拐した、という犯人からの、悪魔の報せだった。
身代金は200万ドル。払えるはずのない法外な金額に、ミッチは愕然とする。
そんな戸惑うミッチの目前で展開された、まさかの惨劇―
不条理な犯人の要求に、執拗な警察の追及…
次々と降りかかる災難の中、ミッチはホリーを救うことができるのか。
いかにもクーンツらしい、序盤からグッと引きこまれる展開だ。
突然襲いかかる、不条理そのもののシチュエーション。
平凡な男に対し、犯人がつきつけた要求は200万ドル。
「頼む、聞いてくれ。ぼくは庭師なんだ」
「知ってるさ」
「銀行にあるのは一万一千ドルそこそこだ」
「知ってるさ」
〝犯人たちは頭がおかしいとしか思えない。妄想だ。
連中の計画は、まともな人間には理解できない。狂気じみた空想にもとづいている。〟
そんな言葉があるかどうかはともかく、〝ただの誘拐〟ではないのだ。
ここからストーリーは一気にアクセル全開。
目の前でとんでもない事件が起こったかと思えば、警察はその犯人としてミッチに目をつける。
ただでさえどん底のミッチは、ますます追いつめられていく、という展開。
身代金すら準備できない状況に、苦しむミッチ。
だが、ここからがこれまたいかにもクーンツらしい〝愛の万能主義〟が幕を開ける。
〝ホリーを救うのは金ではないとミッチは気づいた。ホリーを救えるのは自分だけだ。
ミッチの不屈の精神、ミッチの才知、ミッチの勇気、ミッチの愛だけが。〟
時にハーレクイン・ロマンスをも彷彿とさせる(といっても読んだことないが…)、
クーンツ流のベタ甘なロマンス要素を織り交ぜながら、
読者の乗ったジェットコースターは急降下とツイストを繰り返す。
あとは、流れに身を委ね、ラストまで一直線、というお馴染みのスタイル。
スーパーナチュラルな要素こそないものの、往年のクーンツを思わせる作品だ。
過去の名作群からすると、パワー不足の感は否めないし、
正直なところ、後半からラストにかけて、やや失速しているような印象も強い。
それでも、次々と繰り出すツイストには、思わず「おっ、そうくるのか!」という感じ。
〝新たなる傑作〟は明らかに誇張が過ぎるにしても、
クーンツのファンなら、いい意味での既視感とともに、楽しく読める1冊ではあると思う。
ただ、まだクーンツを読んだことがない読者にはお勧めしたくない。
「ウォッチャーズ」か「ストレンジャーズ」か「ファントム」あたりを読んで、
さらに文春文庫で出ているあたりを押さえて、さらに読みたい、と思ったら、の作品。
つまり、クーンツ作品ではベスト10に入るか、入らないか、程度ということだ。
褒めてるのか、貶してるのか、相変わらず微妙だが、まあそこらが率直な感想だ。