有川浩「図書館戦争」

mike-cat2006-03-03



読むのは「空の中」に次いで2冊目。
前回は、「−」(長棒)だらけのアニメっぽいセリフ回しや、
突然全開フルスロットルになるセイシュン模様にやや戸惑いもあったが、
こちらが慣れたせいか、それとも作者がさらに巧くなったのか、ほとんど気にならず。


あらすじはだいたい、オビの通り。
公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として
 『メディア良化法』が成立・施行された現代。超法規的検閲に対抗するため、
 立てよ図書館! 狩られる本を、明日を守れ!〟
これだけ読んでいると、表現の自由を守る、まじめな小説っぽいが、
実際の味つけは、作者いわく「月9連ドラ風 行政戦隊図書レンジャー」。
確かに読んでいて、
ゆうきまさみの「究極超人あ〜る」と「機動警察パトレイバー」を思い出したので、
ああ、そんな感じね、と思ってもらっていいかもしれない。


元ネタとなったのは、以下の「図書館の自由に関する宣言」だ。
日本図書館協会が1954年に採択、1979年に改訂した、実在のもの。
いわく「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、
資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する」


第1 図書館は資料収集の自由を有する
第2 図書館は資料提供の自由を有する
第3 図書館は利用者の秘密を守る
第4 図書館はすべての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。


この、団結して自由を守る、というのが、とても実際的、武力的な意味で、
図書館を、本を、表現の自由を守ってしまう、図書戦隊、なのである。
じゃあ、何でそんな武力的な防衛が必要か、というと、そこらへんからSF世界に入る。
ことは昭和最終年度に遡る。
公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律として成立した「メディア良化法」。
この法律、検閲基準については細則や施行令で随時補うことができ、
その裁量権は執行機関に委ねられるという驚くべき無制約ぶり、というのがミソだ。


そして迎えた正化三十一年。
〝メディア良化法を根拠法としたメディア良化委員会は法務省にその本拠を置き、
 各都道府県にメディア良化委員会代執行組織となる良化特務機関を設置。
 あらゆるメディアの良化を目指し、公序良俗に反する書籍・映像作品・音楽作品などを
 任意で取り締まる権限を持った。〟
つまり、手段を選ばず、何でも検閲ができるという、
かつてのファシスト政権や、旧社会主義国なみの事態が勃発するわけである。


メディアがこの法律の前に骨抜きとなる一方で、立ち上がったのが公立図書館だ。
〝検閲を退けてあらゆるメディア作品を自由に収集し、
 かつそれらを市民に供する権利を合わせ持つ公立図書館は、
 メディア良化委員会にとってほとんど唯一の警戒すべき「敵」となった。〟
そして抗争の激化は武装化をうながし、あくまで図書館側は専守防衛を唱えつつ、
良化隊員と図書館員が抗争で死傷することすら超法規的解釈がなされる、という状況が作られたわけだ。
説明長くなったが…


底流に流れるテーマとなるのはもちろん言葉狩りの世界だ。
犯罪の助長、バイオレンスの原因を本や映画に求める傾向や、
人権擁護とプライバシー保護を隠れ蓑にしたメディ規制法案が提出されている現在、
単なる絵空事と笑い飛ばせない怖さがある。
そのテーマの一方で、白馬の王子様に憧れる主人公や、学園ノリの図書特殊部隊の訓練風景、
そしてもちろん淡い恋愛模様、といい感じの軽いノリもとてもいい。
だが、そんな、普通に書いたら分離してしまいそうな二つの題材を、うまくまとめている。
図書館の自由に関する宣言、に基づく章立て構成も面白い、意欲作という感じ。
この作家のすごさ、あらためて実感させられる作品だな、と感心しきりで本を閉じたのだった。
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