ベルナール=アンリ・レヴィ「アメリカの眩暈―フランス人哲学者が歩いた合衆国の光と陰」

mike-cat2007-01-31



〝200年前に最も進歩した
 政治制度を誇っていた国が、
 いま恐るべき退化の様相を呈している!〟
アメリカ国内で猛烈な反響と批判を呼んだ、
米誌「アトランティック・マンスリー」連載の話題作。
〝フランス最高の知性が全米を行脚、
 一見のどかな光景の裏に潜む危険な兆候を看破し、
 痛烈なウィットで描きとった問題作。〟
「ヌーヴォー・フィロゾフ(新哲学派)」の旗手による、
アメリカのさまざまな〝現場〟をめぐるルポルタージュだ。


19世紀、アメリカの監獄制度の調査を名目に、新大陸を巡った、
アレクシス・トクヴィルアメリカの民主主義」(岩波文庫アメリカのデモクラシー)の
足跡をたどるとともに、現代における「化け物」でもあるアメリカ、
そして、アメリカのおけるデモクラシーの〝現在〟を見つめ直す。
ボストンのやや南方、ロードアイランド州ニューポートから始まる旅は、
サザン・ネバダの女子監獄、リッカーズ・アイランドにアンゴラ
アルカトラズ(こちらはもう現役ではないが)など監獄めぐりはもちろん、
アメリカ最大のショッピング・モールや野球殿堂、ストリップ・クラブ、
アーミッシュの村に、モルモン教の聖地ソルトレークシティー、彫像で有名なラシュモア山…
アメリカ文学界の狂犬ジェイムズ・エルロイや、ハリウッドの映画人、
ヒラリー・クリントンバラク・オバマら大統領候補のもとも訪ね歩く。


何せフランス人の上、哲学者ということで、その視点はかなり独特だ。
フランス至上主義をあからさまに振りかざすことはないが、
ふとした時に、どこか見下した態度がかいま見えることもある。
哲学的な物言いは、時に平易さを失い、観念の世界にどっぷりと浸かり込む。
しかし、大所高所からの鳥瞰図ではない、自らの足で歩き、見つめたそのスケッチは、
たとえ、どこかに独断と偏見が透けて見えようとも、興味深いものばかりだ。


ミネアポリスアメリカ最大のショッピングモール「モール・オブ・アメリカ」を、
著者は商品のメガチャーチ、バラ色のメトロポリスと茶化しつつも、
その閉鎖空間に、アメリカ文明が達した危険で純粋な何かを見る。
もしアメリカで暮らすなら、という問いを自らに投げかけ、
そして選択した街シアトルには、アメリカに自らが夢みたすべてを見いだす。
中心のない街ロサンゼルス(ダウンタウンはあるが、中心とは言い難い)には、
発育不全の言語を有する都市、理解不能・読解不能な年の言説の典型を見る。


サンディエゴ、オースティン、マイアミなどなどアメリカをなめ回し、
最後はワシントンDCからボルティモアフィラデルフィアを経て、
メイフラワー号と102人の巡礼者がたどり着いたケープコッドへ。
長い旅を終えた後に綴られるのは、何と100ページにも及ぶエピローグ。
そこに展開するのは、ヘビー級の重量感に相当する、観念の世界。
〝現状にこれほど不安を抱き、未来に自信が持てず、祖国の基礎を築いた価値観、
 すなわち神話の価値に自信の持てない国民はいない〟ときっぱりと断言し、
〝眩暈〟に陥ったアメリカを、さまざまな角度からもう一度語っていく。
〝不十分な国家〟にして、〝何となく安堵感がある〟アメリカに著者が見たもの。
少々難解すぎて、最後はよく分からなくなってくるのも確かだが、
魅惑的な旅の果てに、こうした観念の世界に身を委ねるのも悪くない。


自分がかつて見たことのあるいくつかな光景を思い出しつつ、読みふける。
これは違うんじゃないか、と思うこともあるし、
なるほどそんな視点もあったのか、と感心することも…
そんな、アメリカの再体験という意味でもなかなか楽しい1冊だったと思う。


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アメリカの眩暈
ベルナール=アンリ・レヴィ著 / 宇京 頼三訳
早川書房 (2006.12)
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