海野弘「ホモセクシャルの世界史」
「スパイの世界史」「陰謀の世界史―コンスピラシー・エイジを読む」
の姉妹編、という扱いになるらしい。
オビがなかなかそそる。
「その時、禁じられた絆が歴史を動かした
ギリシャ・ローマ時代から現代まで−
世界史の闇に隠されたホモセクシャル・コネクション
アレクサンドロス大王、カエサル、ダ・ヴィンチ
ランボー、D・H・ロレンス、ケーリー・グラントも!?」
歴史上、そして現代において活躍する人々の中に、
ゲイの人も少なからず存在している、というのは別に目新しくない。
しかし、それについて取り上げている本や雑誌は、
ゲイに対する差別的な思想や、ゲイ・カルチャーへの不理解から、
必ずしも切り離されたものではない。
むしろ、「あいつ、ホントはホモなんだぜ」的な部分が多いようにも思う。
だから、こういう形で(それも、おそらくフェアなスタンスで)
本にまとまっているのを見ると、読んでみたくなるのが人情というものだ。
僕がゲイじゃない以上、下世話な興味には違いないのかもしれないけど。
ちなみに、この本が取り上げるのはオトコ×オトコのホモセクシュアルのみ。
オトコばかりが取り上げられる、歴史というものの性質上、
いわゆるレズビアンの方は、史料的にも少ないのだろう。
で、本の内容だ。
かつてサイレント・シン(語られざる罪)といわれたホモセクシュアル。
起源をたどれば、古代ギリシャの〝友愛〟にまで行き着くほど、
古くから存在するゲイ・カルチャーが、
政治的に、そして宗教的に弾圧されてきた歴史を、文献でたどる。
まあ、宗教なんかもそうだか、セクシャリティというものが、
さまざまな場面で不当に扱われ、不当に利用されていることが読み取れる。
中盤からは文学史を中心に、映画などの芸術・文化において、
ホモセクシュアルが果たした役割を、単なる人という視点だけでなく、
ゲイ・カルチャーそのものが及ぼした影響まで掘り下げて、言及する。
まあ、映画や音楽、ファッションも含めて(特にファッションとか顕著だが)、
ゲイの人抜きに、現代の文化が成り立たないのは、もう当たり前なんで意外性はないが、
さまざまな作品にゲイ文化そのものが影響している、というのは、非常に面白い。
ただ、この本。ちょっときついのは、近代文学史の素養が必要なこと。
作者がもともと、文学史などを専門にしている人のようで、
さまざまな名前が、次々と、それも当たり前に出てくる。
ここらへんの素養があれば、「ほお」となるのだろうが、
僕のようなレベルだと単なる名前の羅列にもなりかねない。
だから、本の中盤は、なかば文字面を追うだけ、みたいな部分もあった。
終盤のハリウッド・ゲイ人脈も、やはり現代の俳優より、かつての名優が中心。
トム・クルーズとか、リチャード・ギアの名前も出てくるが、
いずれもカムアウトしていない人たちなので、歯切れは著しくよろしくない。
まあ、プロモーション上、完全なカムアウトも、完全な否定も難しいから、
こういう俳優たちは、グレーゾーンを漂うものだし、それは仕方ないんだが。
ケヴィン・スペイシーとかの名前も出ていない。
この人なんか、ゲイのイメージを否定せず、肯定もせず、
のどっちつかずでうまく利用している感があるので、面白いと思うが、
やはりうかつに書くと、訴訟にも発展するだろうから、難しいのだろう。
全般的には、面白い題材だけど、読み物としてはいまいち…の感じか。
欲をいえば、
みずからのセクシュアリティをカムアウトして、キャリアが大きく軌道修正された、
アン・ヘッシュら(もっともこの人はレズビアンだが…)、現代の俳優とか、
フレディ・マーキュリーとか、音楽界の人も取り上げて欲しかったし、
たぶん、ヘテロセクシュアルを探す方が難しそうなファッション界とかの話も、
読みたかったな、という気持ちも強い。
まあ、でも前述した通り、文学史に素養のある方なら、
また違う感じで読めるかもしれない。
僕的には、まあ一読の価値はあったかな、と。
読み終わって、ドッと疲れたのも確かではあるんだけどね。