東野圭吾「怪笑小説 (集英社文庫)」

mike-cat2005-06-08



きょうは出先で、手持ちの本がなくなり、急遽購入。
先日の「黒笑小説」に連なるブラックユーモア短編集だ。
本気で悪ふざけした、いい感じの小説が詰まっている。
想像以上に難しいジャンルだと思うが、この作家はホント器用で多芸だと思う。
何編かハズレもあるけど、手ごろに読めて、ちゃんと笑わせる。
もちろん、苦笑も混じるし、含み笑いもあり。
まさにタイトル通り〝怪しい笑い〟が浮かぶ一冊だ。


笑えるのはまず「超たぬき理論」か。
UFOの正体は、文福茶釜のたぬきだ!、
というトンデモ理論をくそまじめに説く、空山一平の物語だ。
きっかけは、子どものころに遭遇した、たぬきのキューちゃん。
たぬきは化ける、をヒントに、狼男も「美女と野獣」の野獣も、
何でもかんでも正体はタヌキだと、理論的に結論を導く。
いわく、ギリシャ神話のタンタロスも、「たんたんたぬき」になってしまうし、
タヌキの語源は、turning coon(旋回するアライグマ)だ、と。
しまいに、アダムスキー型UFOもタヌキだった、と結論づける。


テレビにも出演した一平は、あやしいUFO信者とも論戦を繰り広げる。
この論戦がたまらなく面白い。
UFO信者の論理をそのまま流用したような、へ理屈の数々で
「UFOの正体はタヌキだ」と説き伏せるのだ。
なるほど、そう信じてしまえば、どんなネタでも根拠になるんだな、と感心する。
これ、タヌキだからお笑いになるけど、似たような理屈で「CIAの陰謀だ」とやった時に、
一概に否定できないような気もするから、これまた怖い。


「あるジーサンに線香を」は、読んでの通り「アルジャーノンに花束を」のパロディ。
これは正直言って、あんまり面白くない。
話が見え過ぎている割に、特別なアレンジもない感じ。
あと面白かったのは「しかばね台分譲住宅」。
分譲価格が下落する新興住宅地にある日、死体が置かれていた。
これ以上の価格下落を防ぎたい住人たちが取ったテは…、というやつ。
オチはいまいちだが、ブラックな感じは一番かもしれない。
作者のヒトの悪さ、というのがにじみ出ていて、これまた笑わせる。


冒頭の短編「鬱積電車」は、夜のラッシュでの乗客たちの苛立ちを描いた作品。
まあ、昔の筒井康隆あたりが書きそうな感じの話だが、
乗客たちの生々しい独白は、けっこうリアルで楽しめる。
実際、こういうケースがあったら、と想像してみると、なかなかいいかも。


まあ、こんな感じで軽く楽しめる一冊。
たまに読むと、頭がリフレッシュできるような感じで、けっこううれしい。
また、買ってしまいそうな予感が、かなりしてきた。