東野圭吾「怪笑小説 (集英社文庫)」
きょうは出先で、手持ちの本がなくなり、急遽購入。
先日の「黒笑小説」に連なるブラックユーモア短編集だ。
本気で悪ふざけした、いい感じの小説が詰まっている。
想像以上に難しいジャンルだと思うが、この作家はホント器用で多芸だと思う。
何編かハズレもあるけど、手ごろに読めて、ちゃんと笑わせる。
もちろん、苦笑も混じるし、含み笑いもあり。
まさにタイトル通り〝怪しい笑い〟が浮かぶ一冊だ。
笑えるのはまず「超たぬき理論」か。
UFOの正体は、文福茶釜のたぬきだ!、
というトンデモ理論をくそまじめに説く、空山一平の物語だ。
きっかけは、子どものころに遭遇した、たぬきのキューちゃん。
たぬきは化ける、をヒントに、狼男も「美女と野獣」の野獣も、
何でもかんでも正体はタヌキだと、理論的に結論を導く。
いわく、ギリシャ神話のタンタロスも、「たんたんたぬき」になってしまうし、
タヌキの語源は、turning coon(旋回するアライグマ)だ、と。
しまいに、アダムスキー型UFOもタヌキだった、と結論づける。
テレビにも出演した一平は、あやしいUFO信者とも論戦を繰り広げる。
この論戦がたまらなく面白い。
UFO信者の論理をそのまま流用したような、へ理屈の数々で
「UFOの正体はタヌキだ」と説き伏せるのだ。
なるほど、そう信じてしまえば、どんなネタでも根拠になるんだな、と感心する。
これ、タヌキだからお笑いになるけど、似たような理屈で「CIAの陰謀だ」とやった時に、
一概に否定できないような気もするから、これまた怖い。
「あるジーサンに線香を」は、読んでの通り「アルジャーノンに花束を」のパロディ。
これは正直言って、あんまり面白くない。
話が見え過ぎている割に、特別なアレンジもない感じ。
あと面白かったのは「しかばね台分譲住宅」。
分譲価格が下落する新興住宅地にある日、死体が置かれていた。
これ以上の価格下落を防ぎたい住人たちが取ったテは…、というやつ。
オチはいまいちだが、ブラックな感じは一番かもしれない。
作者のヒトの悪さ、というのがにじみ出ていて、これまた笑わせる。
冒頭の短編「鬱積電車」は、夜のラッシュでの乗客たちの苛立ちを描いた作品。
まあ、昔の筒井康隆あたりが書きそうな感じの話だが、
乗客たちの生々しい独白は、けっこうリアルで楽しめる。
実際、こういうケースがあったら、と想像してみると、なかなかいいかも。
まあ、こんな感じで軽く楽しめる一冊。
たまに読むと、頭がリフレッシュできるような感じで、けっこううれしい。
また、買ってしまいそうな予感が、かなりしてきた。