天童荒太「永遠の仔」

mike-cat2005-01-27

永遠の仔〈1〉再会 (幻冬舎文庫)」「永遠の仔〈2〉秘密 (幻冬舎文庫)」「永遠の仔〈3〉告白 (幻冬舎文庫)
永遠の仔〈4〉抱擁 (幻冬舎文庫)」「永遠の仔〈5〉言葉 (幻冬舎文庫)
永遠の仔〈1〉再会 (幻冬舎文庫)永遠の仔〈2〉秘密 (幻冬舎文庫)永遠の仔〈3〉告白 (幻冬舎文庫)永遠の仔〈4〉抱擁 (幻冬舎文庫)永遠の仔〈5〉言葉 (幻冬舎文庫)


「このミステリーがすごい」では1999年度版の国内ベスト1。
ちなみに2位が東野圭吾白夜行 (集英社文庫)」、3位に福井晴敏亡国のイージス」。
ランキングはあくまで目安にすぎないが、
それでも相当のレベルの高い争いだと思う。2作とも、大傑作だ。
で、「本の雑誌」とかのレビューでも絶賛されていた。
僕的な〝前評判〟としては、間違いのない〝傑作〟。
じゃ、何で読んでないのか、という言い訳を、聞かれもしないのに書いてみると、
当時はあまり国内ものに興味がなかった、というのがまず1点。
その後も「すぐ文庫化しちゃう」幻冬舎を信用できず、ハードカバー版を買うのをためらい続けてきた。
ついに文庫化されたと思ったら、5分冊…。めんどくさいんだよね、細切れって。
そんなこんなで、読みそびれてきた〝傑作〟。
ようやく、の想いを胸に(勝手に読まなかっただけだが)読み始めた。


序盤、感じたのは「スリーパーズ?」(スリーパーズ―恐怖の少年院と復讐の記録)だった。
ブラッド・ピットとかケヴィン・ベーコンジェイソン・パトリック(消えたな、かつてのセクシー1位…)出演
バリー・レヴィンソンが監督で映画化されたロレンゾ・カルカテラの小説。
でも、読み進めていくうちに、モチーフのひとつが共通なのは確かだが、
大きな違いがだんだんと感じられるようになってきた。
むろん、ストーリーもテーマも違うから、当たり前なんだが、
それ以外にも湿度が圧倒的に違うのだ、そう感じた。


そう、「永遠の仔」はとにかく、湿度が高い。
例としてはもちろん、子供時代の事件をめぐる対処の違いがあるのだが、
心情的なものを含めると、やはり「永遠の仔」の空気の重さは圧倒的だ。
それは、ある意味こちらも共通のモチーフを使った、
デニス・ルヘインミスティック・リバー (ハヤカワ・ノヴェルズ)」なんかの方が近いんじゃないのかな、と。
でも、暗さ、切なさ、救いのなさでは同じくらいなのに、やっぱり「永遠の仔」は粘度が高い。
だから、その粘度をどう感じるか、がこの小説への好き嫌いになるんだと思う。


で、読み終えての感想なんだが、
個人的には決して〝傑作〟にはカテゴライズできない作品だったのだ。
それは、もしかすると期待値が高すぎたからかもしれないけど、
何というか、カタルシスが感じられないのだ。
罪を背負っても生きることのつらさ、切なさをどう受け入れていくか、というのは、
ミスティック・リバー (ハヤカワ・ノヴェルズ)」とも共通だけど、
永遠の仔」ではどうにもその部分が割り切れない。
必要以上に自分を不幸に追い込む、その心理描写は見事だと思うし、
とても綿密な取材をもとに書かれているのだと思うけど、あまりに救いがなさすぎると感じた。
これは、あくまで個人的な感想で、ストーリーとして完成度が高いのは承知の上。
ただ、それがゆえに、著者の作為が見えすぎて、多少辟易した部分があるのかもしれない。


小説を読んでいる、というよりも、何となく天童荒太の演説を聴いているような、
そんな感触なんだろうか。
読んでいて、哀しくなったり、切なくなったりはしたんだが、
こころの深くまで動くような部分がないのだ。
どこか、著者の存在が常に感じられてしまうし、
その存在が尊大に感じられて、鼻白む、までいったら言い過ぎかな。


それは、文庫本についてる〝製作ノート〟であるとか、
文庫判「家族狩り」のオビについてる、著者の手書き文字
〝国内に、また世界に悲しみがあふれるいま
 届けるべき物語とは何か 考え抜いた結実です〟とかにも通じる〝何様〟感だ。
大作家の大傑作に対して、こういうこと書いてる自分こそ〝何様〟なんだけど。


まあ、もっと細かくいうと、ミステリー的要素としては、
エンタテイメント小説のそれ、としてもさほど感心するほどじゃないし、
泣かせっぽい要素も、そういうしらけた視線で見ちゃうと、何となく陳腐。
詳細なリサーチにしたって、唯一無二じゃないような…
こうして考え始めると、どんどん天の邪鬼になっていく。
そんなこんなで、いまいちすっきりしない。
いや、ホントに本としては面白かったし、
〝力作〟〝労作〟だとは思うんだけど、ね。
僕には、どうしてもそれ以上のものは、伝わってこなかった。