三浦しをん「きみはポラリス」

mike-cat2007-06-03



?世間の注目も、原稿の注文も「恋愛」のことばかり。
 なら、とことん書いてやろうじゃないの!?
直木賞作家となった三浦しをんが贈る、最新恋愛短編集。
?初恋、禁忌、純愛、結婚、信仰、偏愛、同性愛…?
さまざまな相手、さまざまな形の?ただならぬ?11の恋愛。
?ひるまず恋し、おそれず愛す。?
甘く、切なく、でもちょっぴりスパイスの効いた、
三浦しをんシェフによる、恋愛キャンディーボックスの登場だ。


オビにもある通り?「恋愛をテーマにした短編」の依頼が多い。?という。
そんなわけで、巻末の初出、収録一覧には、
依頼者からの「お題」、もしくは「自分お題」が添記してある。
「ラブレター」に「禁忌」「王道」「信仰」「三角関係」…
そんな「お題」の数々が三浦しをんの手にかかると―


冒頭の「永遠に完成しない二通の手紙」は、
最後の「永遠につづく手紙の最初の一文」と対をなす短編。
お題が「ラブレター」の「〜二通の手紙」は、
少年時代からの親友、寺島のラブレター代筆を頼まれた、?俺?のお話。
ヒトはいいが、フラれてばっかりの寺島の面倒を見る、
?俺?のぼやき節がなかなかに味わい深い、?いかにも?三浦しをんな作品。
そして「〜最初の一文」が、そんな?俺?と寺島の出会いと、高校時代を描く。
こちらも、これまた独特の切なさを醸し出す、作品の最後にふさわしい一編だ。


「裏切らないこと」の自分お題は「禁忌」。
?俺?はとんでもない光景を見てしまった。
妻の恵理花が、床に額づくようにして口に含んでいたもの。
それは、まだ赤ん坊の息子、勇人のペニスだった―
衝撃の場面で始まる、裏切らない愛の形をめぐる物語。
決して裏切らない、裏切られることのない愛の形を考えさせられる。


「私たちがしたこと」の自分お題は「王道」。
いまも?私?を縛りつける、高校時代の記憶の物語。
誰かに惹かれても、それ以上親しくなれない、
?私?の戒めが解かれるまでの、その道のりが切ない。


「夜にあふれるもの」の自分お題は「信仰」。
宗教ではなく、まさしく信仰にたどり着いていた真理子と、
腐れ縁の?私?がたどる、高校時代からの不思議な物語。
?私?自身が理解できていなかった、複雑な心情が浮上する描写が印象的だ。


「骨片」のお題は「あのころの宝もの」。
都会の大学の文学部を卒業した?私?は、家業を継ぐべく故郷に帰る。
胸に抱いていたのは、先生の残した、ある言葉だった―
一時の激情がもたらしたあるもの。それをいまでは持てあます?私?。
思い出との訣別を描いた、一風変わった切ない感情が余韻に残る。


ペーパークラフト」の自分お題は「三角関係」。
夫婦の生活に突如闖入してきた、夫の高校時代の後輩。
ペーパークラフトで生計を立てる後輩がもたらしたものは―
不思議な三角関係がもたらした、一種の諦念にも似た感情が何ともほろ苦い。


「森を歩く」のお題は、「結婚して私は貧乏になった」。
職業不詳の彼、捨松が?私?に投げかけた、口説き文句は、
「うはねさん。俺はあなたと森を歩きたい」だった―
すでに記入を終えた婚姻届を手に、惑う?私?の気持ちが味わい深い一編だ。


「優雅な生活」のお題は「共同作業」。
突如ロハスに目覚めたさよりと、ともに暮らす俊明で始めたロハス生活。
ロハスが抱える矛盾をチクリと突きつつ、
ロハスという共同作業がもたらした、新しいふたりの関係を描く、ほのぼのとした作品。


「春太の毎日」のお題は「最後の恋」。
?俺?春太にパイプカットを迫る、麻子の?浮気?をめぐる物語。
ほのぼのとニンマリさせるカラクリも楽しい、これまた一風変わった愛の形。


「冬の一等星」の自分お題は「年齢差」。
車の後部座席で眠ることが大好きな?私?の、8歳の頃の思い出。
昏い場所に行こうとしていた文蔵は、いまも?私?を守ってくれる―
不思議な美しさに彩られた、忘れ難い印象を残す作品である。


以上11編。
どれもが本のタイトル通り、ポラリス北極星)を思わせる、独特な輝きにあふれている。
強いて挙げるなら、マイベストは「夜にあふれるもの」、そして「冬の一等星」だろうか。
三浦しをんお得意の、お耽美な世界や、
そこから一歩踏み出した世界が楽しめる、贅沢な作品集だと思う。


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きみはポラリス
三浦 しをん〔著〕
新潮社 (2007.5)
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