藤野千夜「中等部超能力戦争」

mike-cat2007-06-02



〝少女たちはいつだって
 いじわるで醒めていて――とってもキュートだ。〟
夏の約束 (講談社文庫)」の藤野千夜、最新作。
〝制服に包まれた心の風景。
 ほの見えた瞬間、胸の奥がざわめく。〟
「小説推理」連載をまとめた、「主婦と恋愛」以来1年ぶりの作品の舞台は、女子校―
〝かつてないリアルな空気をまとった学園小説!〟


初等部から続く付属の女子校に通う、はるかの〝へんてこな友達〟―
彼女の名前は、しーちゃんこと、小清水さん。
彼女に意地悪をした人が巻き込まれる、不思議な災難…
そう、彼女には〝おかしな力〟が備わっているとの、もっぱらの評判だった。
だが、それ以上にしーちゃんは、おかしかった。
わがまま、自分勝手、そしてどこか違うリズム。
ほんの小さな出来事から生じた亀裂で、ふたりの〝戦争〟が始まった―


こうやって、ざっとあらすじを書いてみると、
まるでブライアン・デ・パルマ「キャリー」顔負けの学園ホラーのように感じるが、
れっきとした(けど、ちょっと風合いの違う)青春小説、である。
周囲から浮き上がる、へんてこな友達、しーちゃんと、はるかの腐れ縁は、
彼氏や先生、いじめなどを通じて、少しずつ変化していく。
異分子を排除しようとする、〝クラス〟という名の共同体のえげつなさや、
思春期ならでは、のこころの揺れ、なんてものも、生き生きと描かれている。
いわゆる能力、の問題は、少女にまつわるその属性の一つでしかないのだ。


しかし、このしーちゃんがウザいのである。
変わったコをすべて「ウザい」と切り捨てるほど、狭量なつもりもないが、
とにかくマイペースな上に、他人に対しての許容度が極端に低い。
きちんと主張もしないのに、思い通りにならないと、機嫌が悪くなる。
で、ボン! である。
それも、キャリーみたいならともかく、スケールが何ともちっちゃい。
蛍光灯ならあの長いのではなく、ナツメ球がボン! といく程度。
そんなこともあって、はるかとの関係はひたすら微妙な違和感を醸し出す。


そんな思春期の不安定なアイデンティティは、常に揺れ動く。
だが、次々と起こる事件(といっても、中高生にとっての)で、
物語が進行して行くにつれ、そうした揺れは、はるか自身の問題ともなってくる。
自分が何ものであるのか、周囲の世界との距離はどれぐらいか…
少しずつ、はるかのはるからしさ、が見えてくるのだ。


そんなテーマを内包しつつ、リアルな学園風景を映し出す物語は、
藤野千夜らしいオフビートな雰囲気をまといつつも、
テンポよく、それでいて突然シフトダウンしながら、独特の盛り上がりを見せていく。
女子高生だったこともないにもかかわらず、
かつて味わったセイシュンを感じる(もちろん、超能力はなかったが)作品なのだ。


何度も同じことを書いて恐縮だが、
マイベストの「少年と少女のポルカ (講談社文庫)」など、以前の作品に比べると、
どこかテイストが薄くなったような気はしないでもない。
でも、それは読む人にとっては、より洗練された風にも読めるだろうし、
藤野千夜作品が持っている、独特の味わいが変容したわけではないと思う。
ファンならやっぱり、読んでいて胸に迫るような表現は盛りだくさんだし、
少女ならでは、のどぎつい感じなんかも、やっぱり楽しく読める。
結局は、凡庸な表現に落ち着くが、さすが藤野千夜、という作品なのだ。


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中等部超能力戦争
藤野 千夜著
双葉社 (2007.5)
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