西原理恵子「パーマネント野ばら」

パーマネント野ばら

〝どんな恋でもないよりましやん−。〟
西原理恵子最新作は、えげつなく、切ない女の生き様を描く。
〝村にひとつのパーマ屋さんは、女のザンゲ室。
 そこでは女たちが恋にまつわる小さな嘘を日々告白している。
 男に裏切られても、泣いて笑ってたくましく。
 おとなの女の恋心を描く、感動の物語!〟


「パーマネント野ばら」は、山あいのさびれた村の美容院。
ハウス農家のおばあちゃん達のパンチパーマを一手に引き受ける「野ばら」は、
女たちの告解飛び交うザンゲ室としたその場所で、
出もどりの私はいい話のタネにされながら、さまざまな人間模様に出会う。


浮気夫を轢いてしまうみっちゃんや、包丁仕事のついでに旦那を刺しちゃったひろこちゃん、
〝やりまん〟がいっぺんだけ役に立った経験を喜々として語るけい子ちゃん、
虚言癖が治って退院したら自殺してしまったけいちゃんの思い出などなど、
サイバラ作品の〝切ない系〟らしい、胸に詰まるエピソードが詰まった1冊だ。


たとえば、おさななじみのともちゃんとのお話。
愛されることがとても少なかったともちゃんとの友情は、
なさけなくてかっこ悪いとこから始まり、いつもいつもみっともないとこで深まる。
ちょっぴり切なさを漂わせた、温かな友情が何とも泣かせる。


たとえば、〝彼〟とのお話。
〝私達はいつも夜あって、あうととりとめのない話ばかりしている。
 若い頃は相手の考えていることが全部欲しかったのに。
 今の私達は別れ話の前のような、どうでもいいくだらない話だけずっとしている〟


たとえば、新しい男に逃げられたゆきママが、もっとたくさん話をしたかった、と寂しさに浸る。
「好きな男のいなくなったあとのふとんは 砂をまいたみたいだ」


そんなゆきママのママは、散々泣かされた旦那の死に際でこう語る。
「じいさんがたおれたで 今、虫の息じゃ」
「救急車は?」
「いや、今日は天気がええけん 今日死なしちゃる」


もちろん、苦笑いまじりにうんうん頷いてしまう話もある。
はるかに歳上でぶさいくな婆さんのもとに走っていった〝ニューお父さん〟の一言だ。
「男の人生は真夜中のスナックや。
 ええか夜中のたとえば2時に何でか次のスナックにハシゴする気持ちがわかるか?
 2時やで、2時。次行く店は絶対ここよりろくでもないで。
 けどやっぱりワシとゆう男をここで終わりにするワケにはいかんのや」
わかるような、わからんような… オトコのしょうもなさを表す一言でもある。


ひたすらハードなエピソードの中に、きらりとときめく、優しい言葉。
西原理恵子一流の叙情というか、切なさや滑稽さにあふれたエピソードがグッとくる。
サイバラ作品ではお馴染みの犬や猫が出てくると、
反則だよ、と思いながらも、どうしても涙が止まらなくなる。
さすが、としかいいようのない、サイバラ印の上質な逸品に、またしてもやられてしまった。


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パーマネント野ばら
西原 理恵子著
新潮社 (2006.9)
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