TOHOシネマズなんばで「ロッキー・ザ・ファイナル」

mike-cat2007-04-15



〝NEVER GIVE UP
 自分をあきらめない〟
御歳60歳を迎えたシルベスター・スタローンが、再びリングへ。
あの映画史に残る名作「ロッキー」の完結編。
スタローン自身が2作ぶりにメガホンも握り、ロッキー・ストーリーの幕を閉じる。


まさかのストリート・ファイトで幕を閉じた前作より16年。
かつての偉大な王者は、いまではレストランの店主として、客に昔話を語るばかり。
最愛のエイドリアンは逝き、フィラデルフィアの街並みもすっかりと変わってしまった。
偉大な父の影に苦しむ息子にも疎まれ、魂をくすぶらせながら、過去に生きるロッキー。
最後の炎を燃やすため、再びリングを目指したロッキーに、思わぬチャンスが舞い込む。
強すぎるがゆえに、批判を浴びる無敗の王者が、対戦相手に指名してきたのだった―


ということで、まるまる第1作をなぞるようなストーリーである。
しがないボクサーが、噛ませ犬としてチャンピオンに、果敢にも挑む骨格部分はもちろん、
エイドリアンとの出会いをなぞるような、孤独な魂同士のふれ合いや、
フィラデルフィアの都会で擦り切れたこころを持て余す街の少女との出会い…
かつてたどった道のりを、ロッキーが再び歩むようなストーリー展開は、
登場人物自身によるセルフオマージュのような、懐かしい感覚を味わわせてくれる。


エイドリアンを思い出させる疑似ロマンスを演じる、かつての不良少女リトル・マリーに、
かつてグラブを交えたライバル・ボクサーの一人、スパイダーとの腐れ縁の関係、
そして変わり果てたフィラデルフィアのペットショップにボクシング・ジム、そして愛犬…
懐かしさと切なさを匂わせながら、晩年の哀愁を漂わせる序盤から、
一気に盛り上がる、中盤以降のトレーニング・シーンからクライマックスへ―
わかりきったストーリーでありながら、思わずグッとのどが詰まるような感覚に襲われる。


考えてみると、この映画そのものが、ロッキーのストーリーにも重なる。
ロッキー完結編〝ROCKY BALBOA 〟の製作を聞いたとき、
誰もが耳を疑い、誰もが「スタローン、またもラジー賞?」と思ったものだ。
だが、そんな周囲の嘲笑や、過去の興行的失敗をものともせず、スタローンはまたも立ち上がった。
「ロッキー」という、自分のリングで、スタローンはふたたび戦いを挑み、そして勝利を収めた。
不完全燃焼だったシリーズを燃やし尽くすように、ロッキー・バルボア自身も最後の炎を燃やしたのだ。
これ自体、まさにロッキーのサクセス・ストーリーといっても、言い過ぎではないだろう。


もちろん、オリジナル「ロッキー」をなぞらえたばかりではない。
ライバルに恵まれず、もう一歩先への成長ができない、無敗の若きチャンピオンや、
偉大な父の影を言い訳に、卑屈で弱い自分を甘やかす息子ロバートJrに対し、
身をもって不屈の魂を、そして生き様を見せつける、父親としてのロッキーの物語もある。
ここらへんを盛り込んだせいで、全体の構成が駆け足っぽく感じられるのが問題ではあるが、
この部分は、単にオリジナル「ロッキー」の焼き直しに終わらせなかった要因でもある。


そして、ロッキーといえば、音楽である。

ザ・ベスト・オブ・ロッキー「ロッキー・ザ・ファイナル」サウンドトラック

ザ・ベスト・オブ・ロッキー「ロッキー・ザ・ファイナル」サウンドトラック

冒頭、ビル・コンティによるロッキーのテーマ〝Gonna Fly Now〟がかかる。
これだけで涙腺がゆるむファンも、少なくないだろうと思う。
事実、ぼくは予告でこれと〝Going The Distance(ロードワーク)〟がかかっただけで泣いた。
くだらないテレビで散々使い回された今でも、あの曲のパワーは偉大だ。
Surviver〝Eye Of The Tiger〟や、John Cafferty〝Hearts On Fire〟などの、
数々の名曲はこの作品ではかからないが、場面場面で脳裏に甦ってくる。
やはり、「ロッキー」は不滅だ。そう感じさせてくれる、大きな魅力のひとつである。


否定派が観れば、ただひとこと、「ありえない」で片付けるのだろう。
確かに、60歳の元王者が、現役王者と試合をするなんて、荒唐無稽だ。
しかし、おとぎ話といってしまえば、それはそれで第1作「ロッキー」だって同じ。
その荒唐無稽なストーリーを信じたくなるような、熱いドラマがあれば、いいのである。
そして、この完結編。細かい部分では問題も多々あるが、熱いドラマは不滅だ。
作品の中で語られる通り、魂は歳を取らないのだ。
けして傑作とはいえないが、観終わると、
久しぶりにまたあの第1作も観たくなる、こころの琴線にふれる一本。
やっぱり「ロッキー」には、泣かされてしまうのである。