平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル」

mike-cat2006-12-12



2007年度版〝このミス〟国内編第1位。
2006年度日本推理作家協会賞受賞作。
〝業界騒然。掛け値なし、本年最大の問題作。
 平山夢明。この男、驚くほど高く跳ぶ。〟
〝このミス〟による紹介文は、
〝嗜虐、スカトロ、人肉色…読者を選ぶ鬼畜系の魅力全開〟
実録怪談集<「超」怖い話>シリーズを手がける、
平山夢明による、戦慄と驚愕、そして衝撃の短編集だ。


〝神です、神〟
柳下毅一郎
〝恐怖か快楽か。残虐か諧謔か。嘔吐か感涙か。
 …地獄の超絶技巧師・平山夢明は激しく読者を挑発し続ける。
 断言しよう。凄まじき傑作集である。〟
綾辻行人
〝狂気に優しい平山夢明が紡ぐ、優しい狂気の迷宮八つ。癖になります〟
京極夏彦
大絶賛の嵐が巻き起こる短編は、
井上雅彦監修のアンソロジー異形コレクション」などにおさめられた8編。
特に、京極夏彦による〝優しい狂気〟という言葉、至極納得の表現だと思う。


タイミングの悪さはある。
何編かの題材となっているいじめが社会問題化している真っ最中。
さらに、あるバカ教師による、あの事件、である。
実際、読んでみればそんな問題とは一線を画している(特にバカ教師とは…)
、というか、全然次元の違う小説なのだが、
そうした本質はまったく別に、表象だけ見て一緒くたにする人間はどこにでもいる。
実際の事件への影響を理由に、この本が禁書扱いにならないことを祈りたい。


嗜虐的な拷問にカンニバリズム、死体損壊、スカトロジー児童虐待
題材はあまりにも陰惨だ。
悪趣味、鬼畜系、ありとあらゆるネガティブな言葉が似合う。
だが、残虐・嗜虐を描くがために、それを描いているのではなく、
残虐・嗜虐という形でこそ膨らむ物語を描いているのが、この短編集の特徴だ。
題材はとんでもなくても、小説としてのレベルは高い。
それは一種、乙一の衝撃にも似た〝至上の読書〟の時間を提供してくれる。


「C10H14N2(ニコチン)と少年−乞食と老婆」は、
熾烈ないじめを受けるたろうと、異形の乞食じいさんとの出会いを描く。
〝惨めなおじいさんを見ていると悲しみでいっぱいになりました。
 たろうはもし自分があんな身体になったら死んでしまうだろうなと思いました。
 そしてあの人は何で死なないのだろうかとも不思議に思いました。〟
弱者たるたろうの、さらなる弱者への厳しい視点が、苦々しい思いを抱かせる。
光に満ちた町に潜む、陰惨な闇が何とも胸を打つのだ。


「Ωの聖餐」は、
400キロの腐りかけた巨象を思わせる、サーカスの元「大食い男」と、
その世話係を任された男の、奇妙な交流を描く、激ヤバ(!)なストーリー。
明晰な頭脳を持つ〝Ω〟の語りに引き込まれていく感覚が、異様に怖い。


「無垢の祈り」もいじめネタ。
学校ではいじめ、家庭では虐待を受けるふみ。
陰湿で執拗な級友、暴力をふるう義父に宗教狂いの母。
そんな連中に囲まれたふみが、魅せられてしまうのは何と…、というお話だ。


「オペラントの肖像」は、
芸術が〝堕術〟となった世界を描く。
それは、条件付け−オペラントによって、人間の過ちを排除した世界。
堕術を一掃する特務機関に務める〝私〟が、ある出逢いを体験する。


「卵男(エッグマン)」は、
死刑囚房で隣り合わせになった連続殺人犯とケチな強盗殺人犯の物語。
行方不明となった遺体の行方をめぐる、とんでもない秘密。ひねりが効いた1編だ。


「すまじき熱帯」は、
いわば平山夢明版「地獄の黙示録」か、
〝思った以上に人体というのは燃えない。〟という壮絶な書き出しで始まる狂気の世界。
密林の王となった男の行方を求めて、向かった先で見たものは…


表題作「独白するユニバーサル横メルカトル」もすごい。
〝私は建設省国土地理院院長承認下、
 同院発行のユニバーサル横メルカトル図法による
 地形図延べ百九十七枚によって編纂されました
 一介の市街地道路地図帖でございます。〟
慇懃な語りで独白するのは、文字通りユニバーサル横メルカトル図法による地図。
<遮蔽><誇張>によって、人間を<補佐>する〝私〟が見たものは…
地図がカーナビへの憎悪を語るあたり、何とも笑ってしまう部分もある。


「怪物のような顔の女と解けた時計のような頭の男」は、
ゆっくりと、<心>または<ジェンダー><人間>を消滅させていく、
ある儀式に従事する〝MC〟と〝ココ〟の奇妙な邂逅を描く。
〝肉体の喪失は二義的な現象に過ぎない。〟としながらも、
その壮絶な拷問は読んでいるだけで、身体のあらゆる部分に痛みを覚える。
ただ、正直この1編に関してだけは、ちょっとちていけない。
まさしく残虐を描くためだけに、残虐を描いた、という、
ある意味〝純粋〟に題材を描いた印象はあるが、強烈な嫌悪感がよぎる。


ベストの1編を選ぶなら「Ωの聖餐」だろうか。
悪趣味感では屈指の作品ではあるが、
その〝とんでもなさ〟と〝物語性〟のバランスがまさしく絶妙である。
表題作もその地図の〝人の悪さ〟が何ともブラックでいい。
もちろん、ほかの6編もどれを読んでも打ちのめされるすごい作品ばかり。
これだけ称賛を浴びている作品をいまさら褒めるのも何なのだが、
とんでもない題材に喰わず嫌いすることなく、まずは一読して欲しい1冊だ。


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独白するユニバーサル横メルカトル
平山 夢明著
光文社 (2006.8)
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