平山夢明「ミサイルマン―平山夢明短編集」

mike-cat2007-06-24



〝突き刺され。これが小説だ。〟
「このミス」2007年度版国内第1位の
独白するユニバーサル横メルカトル」の著者による最新刊。
〝病的に乾いた笑いと、破けた糞袋
 現代最狂ハードボイルド作家の放つ異臭を嗅げ!
                     ――中原中也
〝聖と俗、惨酷と哀愁の超アクロバット
 これぞ、平山大サーカス!   ――香山二三郎
どんな賛辞を並べてもなお、
その魅力を語りきることができない、異形の作風。
〝再び、お命頂戴いたします。 平山夢明
血と内臓と糞にまみれた、麗しき悪夢が再び、始まる―


作品集に収められたのは、井上雅彦編集の「蒐集家(コレクター)―異形コレクション (光文社文庫)」や、
朝松健編の「秘神界―現代編 (創元推理文庫)」などに収録された8編。
オンブルとリュミエールが織りなす、陰と陽の世界を描いた「テロルの創世」に、
至高の快感を求め、自分を加工する〝俺〟を描いた「Necksucker Blues」、
呪われた血脈をめぐる、苦悩と死闘の物語「けだもの」、
ある時に顕現する、現象を蒐集するコレクター魂を描いた「枷<コード>」、
たった一本の電話を待って、黒電話に囲まれて過ごす耳の聞こえない女と、
〝俺〟の風変わりな愛情を描いた「それでもおまえは俺のハニー」、
墓地近くの家に住み込んだ家族が遭遇した悪夢を描く「或る彼岸の接近」、
↑THE HIGH-LOWS↓の「ミサイルマン」の調べに乗せて、
奇妙な友情?の物語を描く表題作と、まさにアクロバティックな品ぞろえだ。


「枷<コード>」に強烈な印象を覚えた。
ある〝顕現〟を求め、次々に女性を血祭りに上げる主人公。
文字からも目を背けたくなるような、痛い描写に身をよじってしまうのだが、
その顕現に魅せられたコレクターにとっては、瑣末な問題に過ぎない。
〝一見、平凡な市井の女性達のなかに眠っている驚くべき力の顕現には
 神の降臨に臨むのに近しい魂の昂揚があった。〟


だが、何でもかんでも手当たり次第、といかないのが世の常人の常。
こうした猟奇的コレクターにも、ある種の秩序は必要だった。
それが、枷である。
蒐集にある条件をつけ、果てしない欲求に折り合いをつける自己防衛術、
しかし、一方でその枷が救いがたい渇望を生み出しかねない、という、
両刃の剣といってもいいコレクター心理が、何とも奇妙な味わいを醸し出す。


カズオ・イシグロのあの作品と、
共通のテーマを持つ「テロルの創世」も興味深い。
平山夢明の描く、〝そういう世界〟は、こうなるのか、としみじみ味わえる逸品。
「Ωの聖餐」に相通じる不思議な説得力と、
文学的?なオチが何とも人の悪さを感じさせる「Necksucker Blues」も捨てがたいし、
「けだもの」なんかは、そのまんま長編のネタにもして欲しいくらいでもある。


いくつも恐ろしい光景を(活字上とはいえ)目にしながら、
どこか無垢な印象を覚えてしまうのは、やはり平山夢明ならではの魅力なのだろう。
初めて平山作品に触れたとき感じた、凄まじいセンセーション。
だが、多少覚悟ができたいまでも、その衝撃度は変わることはない。
むしろ、知らなかった驚きがない分、
より純粋に味わうことができるようになった気もする。
読み終わっても、まだ視覚と嗅覚に残滓がこびりつくような、
〝キモ心地いい〟読後感が、これまた何ともたまらないのだった。


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ミサイルマン
ミサイルマン
posted with 簡単リンクくん at 2007. 6.22
平山 夢明著
光文社 (2007.6)
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