平山夢明「メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)」

mike-cat2007-02-01



〝ホラー小説の歴史を変える傑作〟
独白するユニバーサル横メルカトル」の、
平山夢明による最高傑作の誉れも高い1冊。
〝人の不幸をコレクションする男の依頼を受けた「俺」は、
 自分の子供の首を切断した女の調査に赴く−〟
果てしない暗黒に包まれた、長編ホラーだ。


〝俺〟は、人の不幸を集める。
雇い主のオギーが持つ「不幸の個人博物館」のための蒐集活動。
喪の情報からたどり着いた、悲劇の〝記念品〟、殺人者のインタビュー…
こんどの標的は、自らの子供の首を切断した女。
いまだ発見されていない子供の頭蓋骨、そして本当の動機。
その殺人の影に隠された、メルキオールとは一体何なのか−


あるひとつのスタイルが貫かれた、スタイリッシュな小説だ。
それは「独白する〜」と同様、異様な嗜虐性や反社会性に満ちている。
だが、アンチモラルでありながら、読むものを惹きつける物語の魅力。
小説の世界でしかなし得ない、途方もない世界がそこには繰り広げられる。
「独白する〜」収録の傑作「Ωの聖餐」のΩにもどこか相通じる、メルキオール。
〝星に導かれ東方よりメシア誕生をその母マリアに告げし三博士(マギ)の一人〟である。
その異形の者、メルキオールに秘められた壮大な物語には、ただただ圧倒される。


それでいて、その語り口は饒舌にして軽妙そのものである。
のたくったような解読不能文字に、犬を振り回すスキンヘッドの男、
バーのカウンターでの不条理なやりとり、そして会話…
「良い後家だが…」
「ああ、気が強い。なにしろ後家だからな。後家は気が強くなくっちゃ」
「良い尻だ」
「ああ、良い尻だ。なにしろ後家の尻だ。後家の尻はああでなくっちゃ」
「金がいるんだな」
「ああ、金がいるな。なにしろ後家は物入りだ。後家の台所は火の車でなくっちゃ」
独特の世界観に一度魅せられてしまえば、あとは一気読みだ。


絶妙としかいいようのない後味の悪いラストにしびれ、目まいを覚える。
つくづく、この作家のすごさを思い知らされる。
どう昇華していいのかわからない、粘り着くような余韻を持て余し、
しばしもの思いにふけってみるのも悪くない。
クローネンバーグとか、リンチあたりに映像化させてみたい気もする、
不思議な魅力に満ちた作品だったと思う。


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メルキオールの惨劇
平山 夢明著
角川春樹事務所 (2000.11)
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