デイヴィッド・R・ウォレス「哺乳類天国―恐竜絶滅以後、進化の主役たち」

mike-cat2006-09-20



〝手乗りサイズのアリクイ、
 走り回るクジラ、
 のしのし歩く巨大ナマケモノ
 2億5000万年におよぶ獣たちの物語。〟
ザリンガーの壁画「哺乳類の時代」に着想を得た、
哺乳類の進化史と研究史をまとめたノンフィクションだ。


当代流行りの恐竜では、エドウィン・H・コルバートの「恐竜の発見 ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース」が、
記憶に新しいところだが、こちらはやや珍しい哺乳類の本である。
日本版特典の「哺乳類の時代」ミニチュア複製付!
とのオビの惹句にそのまんま釣られて、買ってしまった。


原題はジェームス・ディーンの映画を思わせる〝Beast of Eden〟
前述の通り、イェール大学のピーボディ自然史博物館に掲げられた、
ルドルフ・ザリンガーの壁画「爬虫類の時代」と対をなす作品が着想の源だ。
「哺乳類の時代」に、心を虜にされた著者が、
ダーウィンの進化論を叩き台に長く繰り広げられた、
哺乳類進化史における論争や、さまざまな化石の発見史をまとめている。


ただ、マンモスをあしらった表紙のパッと見のイメージと違い、
研究史をまとめたノンフィクションの色合いがかなり強いのも確かだ。
オビにある手乗りサイズのアリクイや、走り回るクジラ、
肉食の巨大ナマケモノなどの記述も確かにあるのだが、
そういったダイナミックな記述よりも、むしろ学者同士の中傷合戦などに、
より多くのページが割かれているのは、間違いのない事実である。
特典のミニチュア複製壁画を眺めつつ、
数少ない動物の進化史の記述を楽しむことはできるのだが、
そうすると、どうしても研究史の部分は読み流すような感じにはなってしまう。


正直なところ、背表紙側のオビにある
〝はるか昔に滅びた獣たちが目の前に現れ、駆け抜けていった。〟であるとか、
〝ウォレスが振るう指揮棒によって、私たちは
 進化のシンフォニーが奏でる壮大な歴史に誘われる〟
というレベルで読める人がうらやましいな、というのが率直な感想でもある。


CGアニメ付のDVDとかで発売されたら、もっと楽しめるような気もするが、
(それでも、研究史の方はもう少しボリュームダウンして欲しいが…)
このやたらと人名ばかりが連発される本の形式では、正直読むのがつらかった。
とりあえず、慣れないジャンルにうかつに手を出すな、
という教訓を胸に刻みつつ、本を閉じるのだった。


Amazon.co.jp哺乳類天国―恐竜絶滅以後、進化の主役たち


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哺乳類天国
哺乳類天国
posted with 簡単リンクくん at 2006. 9.19
デイヴィッド・R.ウォレス著 / 桃井 緑美子訳 / 小畠 郁生訳
早川書房 (2006.7)
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