デボラ・ブラム「幽霊を捕まえようとした科学者たち」

mike-cat2007-05-18



〝幽霊の存在を科学的に実証せよ!
 ノーベル賞科学者のチームが始めた驚愕の研究〟
文藝春秋の新刊海外ノンフィクションは、
幽霊を大まじめに研究した、偉大な科学者たちの物語。
錬金術からは化学が! 占星術からは天文学が! 心霊研究からは!?〟
科学の発達が世界を大きく変えようとしていた19世紀末、
彼らは、その科学の力で、幽霊や心霊現象を実証しようとした―


原題は〝GHOST HUNTERS〟
ジョン・カーペンターの監督作品にも同じタイトル(邦題)があったが、
(原題は〝JOHN CARPENTER'S BIG TROUBLE IN LITTLE CHINA〟)
こちらはあくまで、リアルに幽霊を追っかけ続けた、科学者たちのノンフィクション。
幽霊を追いかけるなんて、二流科学者たちのやることだろう、なんて思ったら大間違い。
かのハーヴァード大学ケンブリッジ大学などに籍を置く、
ノーベル賞受賞者や、誰でも知ってる偉人といわれる科学者たちが名を連ねる。


この本の主人公にあたるウィリアム・ジェイムズは、
実験心理学の祖にしてプラグマティズムを代表する哲学者。
(「ねじの回転 -心霊小説傑作選- (創元推理文庫)」のヘンリー・ジェイムズの兄)
ヘンリー・シジウィックは、
イギリス功利主義のパイオニア
ルフレッド・ラッセル・ウォレスは、
ダーウィンとほぼ同時に自然淘汰論に到達した進化論の生みの親。
レイリー卿ジョン・ストラットは、
アルゴンの発見などでノーベル賞を受賞した物理学者。
そして、「シャーロック・ホームズ」のアーサー・コナン・ドイルに、
トム・ソーヤーの冒険」で知られるマーク・トウェインキュリー夫人なんかも登場する。


もちろん、その研究に異を唱える面々も多種多彩。
あの進化論のチャールズ・ダーウィンに、ファラデーの法則のマイケル・ファラデー、
不可知論トマス・ヘンリー・ハクスリーにトマス・エジソンの名前も次々と登場する。
まさに、幽霊の存在をめぐって、当時の科学者オールスターが対決する、といった様相だ。
科学の発達によって、宗教がもたらした伝統的な世界観が揺らいだ時代を舞台に、
心霊研究協会(SPR)を設立し、さまざまな心霊現象の実証に挑んだその結果は―


個人的には、オカルトは嫌いである。
おそらく世にあふれる心霊現象の99%は、盲信か勘違い、もしくは詐欺だと思っている。
宗教と同様、それを信仰することで自らの魂の救済や、
生活や信条に何かの価値を見いだすという意味では素晴らしいと思うが、
テレビでオーラがどうのこうの言ってる?心霊屋?は、早く詐欺罪で捕まって欲しいと思う。
ただ一方で、この本にも登場する心霊現象の数々―

  • 幻像(死の間際のメッセージを受けとる。虫の知らせ)
  • サイコメトリー(物から情報を読みとる)
  • テレパシー(他人の思考や感情を読みとる)
  • テレコキネシス(物に力をおよぼす。空中浮遊、ひとりでに鳴る楽器)
  • エクトプラズム(どこからともなく現れる手や閃光。物質化現象
  • 交差通信(「霊媒←→死者←→別の霊媒」の間でメッセージを相互に伝達)

については、ほとんどのものがインチキか勘違いと思いつつも、
完全には否定できない気がするのも確かだったりもする、という、まあ微妙なスタンスだ。


そんな心霊現象の数々を、大まじめに検証した科学者たちの物語は、やや哀しくも興味深い。
幽霊の存在など鼻にもかけない科学万能主義者からの嘲笑に、
SPRの面々を惑わす、検証にも値しないような99%の詐欺霊能力者&霊媒たち。
科学の偏狭さを嘆くジェイムズの訴えや、自ら体験した心霊現象の謎に迫ろうとする熱意。
そしてようやく見つけた、本物らしい霊能力者の、その能力は科学では実証不能


考えてみれば、いまの科学でも説明できないことはやたら多いのに、
この時代で実証できるはずはないのだが、その苦闘ぶりはやはり、ドラマに富んでいる。
表紙カバーがどうにも堅苦しく見えるのが難点だが、読んでみればそんな不安は吹き飛ぶ。
ゴーストハンターズの面々を紹介する欄あり、関連年表あり、で、
知らない人名にもさほど戸惑わない、かなり親切な構成もうれしい。
アンチ・オカルト派はもちろん、オカルト信仰派にも読んで欲しい1冊じゃないかと思う。


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幽霊を捕まえようとした科学者たち
デボラ・ブラム著 / 鈴木 恵訳
文芸春秋 (2007.5)
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