トレイシー・ウィルキンソン「バチカン・エクソシスト」

mike-cat2007-06-10



カソリックの総本山バチカンには、
 公認のエクソシストたちがいる!〟
悪魔祓いの過去、そして現在、その横顔、
カリスマ・エクソシストエクソシスト養成講座…
エクソシストを多角的に追ったノンフィクション。
〝LAタイムズの敏腕女性記者が、
 深く分け入った「現代の悪魔祓い」〟


エクソシストといえば、
ウィリアム・ピーター・ブラッディ原作、ウィリアム・フリードキン監督で、
1973年に製作された映画が、何よりも有名だろう。
卑猥な言葉で神父に毒づく女の子、回転する首、そして恐ろしい音楽…
あくまで映画、と言い切るには、あまりに強烈過ぎる印象を残した。
そのエクソシストが、実はバチカンで公認されているばかりか、
法王自らも悪魔祓いを行っていた、という衝撃の事実。


〝前ローマ法王ヨハネ・パウロ二世は、その在任中に、
 三度エクソシストとして悪魔祓いの儀式を行っている。〟
〝現在の法王であるベネディクト16世は、就任直後の一般謁見演説で、
 エクソシストたちのグループを称賛しこう述べた。
 「私たちはあなた方を激励します」〟
このトリヴィアだけでも、もう読まずにはいられなくなる、そんな1冊だ。


本の中で紹介される、映画「エクソシスト」の一場面。
匿名で悪魔祓いを頼まれたカラス神父の言葉が引用される。
「まずは、その男をタイムマシンに押しこんで、十六世紀に戻すんですね」
そして、こう続く。
〝実際には、十六世紀に戻る必要などない。
 たんに現代のイタリアへ行きさえすればいいのだ。〟
宗教と生活が密接に結びついているイタリアでは、
バチカン公認の儀式として、非常に多くの悪魔祓いが行われているのだ。


そんな実在するエクソシストの素顔とともに、
この本では、イエス・キリストこそがそもそもエクソシストだった、
という、大胆不敵な歴史解釈から始まり、
ルターの宗教改革や、科学の発達などがもたらした、エクソシストの隆盛、
そして、カリスマ的存在のエクソシストや破門となった型破りのエクソシストたち、
エクソシスト志願者のための大学講座の中身から、
エクソシズムにまつわる医学的、神学的な論議の数々、
悪魔憑きと言われる人々へのインタビューまで、
さまざまな角度からこの不思議な存在を取り上げる。


著者はUPI通信を経て、LAタイムズ入り、
ユーゴ紛争などの取材で名を馳せ、現在はローマ支局長を務めているとか。
いかにも新聞記者らしく、一歩引いた視点からの描写は、
どこか淡々とした印象を受けるが、
〝果たして、悪魔は存在するのか―〟という、論議に、
必要以上に踏み込まないのは、読み物としては正解に思える。


まあ、悪魔憑きといわれる人間のほとんどが解離性障害などの病気か、
勘違いに思いこみ、集団的なヒステリーである、
というエクソシスト自身の意見を紹介した上で、
一種のカウンセラーとしてのエクソシストの効用や、弊害を訴えるのは、
スタンス的にもなかなか共感できる点もあるので、読んでいて納得できる。
とはいえ、ひとつひとつの話題について、さらりと触れるだけで、
全体的には物足りない印象を受けるのも、いかにも新聞記者の書いた本、というところか。


刺激的なオビほどに、グイグイと引き込まれるような面白さには欠けるが、
訳者のあとがきにもあるように、
エクソシストにまつわる本の入門編、ととらえれば、
興味深く、そしてお手軽にその世界に触れることができる本だと思う。
しかし、実際のカリスマ神父が「エクソシスト」のメリン神父=マックス・フォン・シドーではなく、
「アダムス・ファミリー」のフェスターおじさん=クリストファー・ロイドのイメージだった、というのは笑ってしまった。


Amazon.co.jpバチカン・エクソシスト


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

バチカン・エクソシスト
トレイシー・ウイルキンソン著 / 矢口 誠訳
文芸春秋 (2007.5)
通常24時間以内に発送します。