森博嗣「少し変わった子あります」

mike-cat2006-09-19



〝上品で美味しい孤独をどうぞ。
 謎めいた料理店で出会う“少し変わった子”たちが、
 あなたを幻想的な世界へと誘う−〟
〝圧倒的な余韻を残す 森博嗣、衝撃の新境地〟


森博嗣に初挑戦、である。
よく、書店で平積みされているのは見かけていた。
ただ、あまり読まないジャンルというイメージが強く、
「売れてるんだな…」という印象を受けつつも、手は出さずにいた。
この本を手に取ったのは、版元が文藝春秋ということ、
そして、その設定が何だか不思議で、思わず惹かれたからだ。


舞台は、大学で教官を務めている、孤独を好む思索的な〝私〟が足繁く通う店。
ふらりと行方が知れなくなった後輩から教わったその店で、
毎回、接客に現れるのは、30代の女将が1人だけ。
お店の場所も、出てくる料理も毎回毎回違っている、不思議な店。
希望すれば、毎回毎回違う、若い女性が食事を供にしてくれる。
時にはたわいのない会話を交わし、時には沈黙の中で食事は進む。
何ということはない時間。だが、〝私〟は不思議な思いを抱きながらも、店へ足を運ぶ。


何とも、つかみどころのない設定である。
そして、小説自体も、何ともつかみどころのない、
〝私〟の思索が展開していく様を眺めていくだけだ。
理系ミステリともいわれている作家だけに、
その観念的な思考は、ややクドめながらも素直に楽しい。
一見、何ということのない会話やきっかけから、あらゆる方向に思考は膨らんでいく。


だが、何よりこの小説が楽しいのは、やはりこの不思議で奇妙な〝店〟だろう。
それなりの料金を払って2人分の食事代を払い、得られるものは正直ほのかなものだ。
相手をしてくれる女性は、いわゆる接客のプロでもないし、
会話が弾んだとしても、そこからの発展があるわけでもない。
会えるのは、あくまでも、その食事の一回きり、という制限付きである。


だが、この女性たちにはある共通点はあるのだ。
いわゆるかしましい女性ではなく、普通っぽいけど、上品さなタイプ。
そして、食事の作法は完璧、その所作には思わず見とれるほど、という。
この食事の所作が美しい、というのはかなり際立つ特長だ。
特別うるさい方でもないし、自分に目を向ければさほど偉そうなことは言えないのだが、
この食事の所作が美しい女性、意外になかなかいないのだ。
静かに、時にはちょっとした会話を楽しみながら、
食事を進めるのが目的なら、この設定は思った以上に魅力的かもしれない。
この〝私〟のような方向で、思考が進むかどうかはわからないが、
きっと、何か新しい発見があるのではないか、と想像が膨らんでいくのだ。


冒頭の「少し変わったことあります」から、続々と奇妙な世界を見せられ、
最終章「少し変わった子終わりました」のオチに、思わずニヤリとさせられる。
ちょっと今後読み込んでみようかな、と思わせる、変わった風合いの一冊だった。


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少し変わった子あります
森 博嗣著
文芸春秋 (2006.8)
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