梅田ピカデリーで「チャーリーとチョコレート工場」

mike-cat2005-09-12



ビッグ・フィッシュ」では、微妙に期待をハズしてくれたティム・バートン最新作。
MJ(バスケット系でなく、小児性愛系のほう)を思わせる、
白塗りのジョニー・デップが、チョコレート工場経営の変人を演じる、ファンタジーだ。


ジョニー・デップ史上ナンバー1ヒット作品、というのが売り文句。
しかし、トム・クルーズだの、トム・ハンクスだのといった、
メインストリームの作品ばかりに出ている、いわゆる正統派のスター俳優ならともかく、
デップ出演の作品群を、興行収入で語る、というのは、かなり的外れじゃないだろうか。
ここ最近こそ「パイレーツ・オブ・カリビアン」など、
いわゆるメインストリーム作品にも出ているけど、
基本的にこのヒト、作品選びはかなり独特といっていい。
シザーハンズ」「エド・ウッド」「スリーピー・ホロウ」などバートン作品の常連だし、
ラッセ・ハルストロムの「ギルバート・グレイプ」で涙を誘ったと思えば、
ラスベガスをやっつけろ」「ナインスゲート」などヘンな映画にも喜々として出演する。
ピンクの衣装でゲイに扮した「夜になる前に」なんて、間違いなく面白がってやってる。
で、こういう映画に出ているヒトなのだから、代表作どうこうを興収で判断するのは、ね…


町の高台にそびえるのは、世界一のチョコレートを作るウォンカの工場。
この15年、誰も工員が出入りした様子はないのに、なぜか操業を続けている。
その工場近くに住むチャーリーは、両親と寝たきりの祖父母4人の7人暮らし。
チャーリーは親孝行、悲惨なまでに貧乏な家庭でも健やかに育っている。
ある日、天才ショコラティエのウィリー・ウォンカは、
その謎の工場に5人の子どもを招待する、と大々的に発表する。
招待状は、チョコレートのパッケージに隠された、ゴールデンチケット
5人のうちのひとりには、スペシャルプライズも用意されているという。
夢のチョコレート工場見学の権利をめぐって、世界中で騒動が巻き起こる。
大食漢、わがまま娘、ゲームオタク、コンテスト娘。
次々とチケット獲得者が名乗りを挙げる中、
貧乏でチョコは年に1回の誕生日だけ、というチャーリーも幸運にもチケットを手に入れた。
謎のチョコレート工場には、何が隠されているのか、
そして、スペシャルプライズを勝ち取るのは誰なのか、いよいよ夢のツアーが幕を開ける…


で、映画の出来。
まずは、欠点というか、気になる点を挙げたい。
この映画、基本的には寓話的要素の強いファンタジーだ。
というわけで、寓意、というものがかなり強く打ち出されている。
しかし、その寓意があまりに露骨なのだ。過剰といってもいいほどだ。


だから、スペシャルプライズの行方、ほかのこどもを見渡してみれば、答えはひとつ。
親孝行で真っすぐ、という典型的な子どものロールモデルたるチャーリーに授けられる。

オーガスタス・グループは食べ物を汚らしく食い散らすデブ。

バイオレット・ポーレガードは、ガムをクチャクチャかみ続けるコンテスト狂。

ベルーカ・ソルトは、何でも欲しがる金持ちのわがまま娘。

マイク・テイーヴィーはテレビばっかり見ている小生意気なくそガキ。

もう、わかりやすいぐらいにイヤなガキばかり。
貧乏な家計を助けるために、チケット売却を考えてしまうチャーリーとは相手にならない。


しかし、この4人のクソガキたちが、あまりにもな明快にクソガキ過ぎて、
チャーリーのいい子ぶりが、むしろ嘘くさく偽善的にすら映ってしまうのだ。
同じくデップとの共演「ネバーランド」では世の中に拗ねて見せたピーターを演じた、
フレディ・ハイモアの演技は、特筆ものといっていいし、
ほかの4人も、なかなか魅力的なキャストを揃えている。
それでも、あまりにもあからさまな対比が、それを台無しにしてしまうのだ。


たとえば、チャーリーに、もう少し子どもらしいセルフィッシュな葛藤があるとか、
(拾った××で×××を買うことには何の躊躇もないようだが…)
ほかの4人の〝イヤなガキ〟描写をもっと抑えてみるのもテだったかもしれない。
4人を一概に「このコを悪い」と決めつけられないぐらいにして、
子どもらしい葛藤も抱えるチャーリーと、双方で歩み寄りをさせていれば、
もっと深みが出たんじゃないか、と思うし、
本来伝えたかった寓意も、建前論じゃないレベルできちんと伝わったんじゃないか、と。


思わず長々と書いてしまったが、なんでこんなに長々と書くか、というと、
この設定の甘さが唯一といっていい、瑕疵でもあるからだ。
奇人変人を演じたらこの人、のジョニー・デップは相変わらずの好演を見せているし、
チャーリーをやさしく見つめるジョーおじいちゃん、
デービッド・ケリー(「ウェイクアップ・ネッド」)の演技といったら、もうグググイッとこころを掴む。
映画オリジナル部分でも、ウィリー・ウォンカの厳格な父を演じる、
クロストファー・リー(「スター・ウォーズ」のドゥークゥー伯爵)も、深い味わいを加える。
チャーリーの両親を演じるヘレナ・ノバム=カーター、ノア・テイラーも好印象だ。


そして、バートンの持ち味であるビジュアルも、文句なしのできばえだ。
どこか郷愁を誘う寂れた町並、そこにそびえ立つチョコレート工場。
文字通り傾きかけたチャーリーのボロ家。
工場内を見回しても、サイケデリックに彩られたそのポップな色合い、独特のデザインが
お菓子の国のファンタジーを見事に創り上げている。
工場ツアーのオープニングを飾る、からくり人形も、
微妙な狂気をはらんだ危険さと、バートン一流のシャレのきつさが、
適度にバランスが取れていて、「ビートル・ジュース」なんかを思い起こさせる。
くるみ選別を担当するリス軍団なんか、もうたまらない。
実際に40匹のリスをトレーニングし、それに精巧なアニマトロニクスを加えたらしい。
どうやったらこんなすごい映像ができるのか、ひたすら感心するばかりだ。


その奇妙な世界観の象徴ともいえるのが、ディープ・ロイ演じるウンパ・ルンパだ。
カカオ食べ放題につられてアマゾンの奥地からやってきた彼らの背丈は、大人のひざぐらい。
そして、顔はみんなディープ・ロイの顔。
このヒトたちが、間抜けなお歌をバックに踊りだす場面、もう最高だ。
少なくとも僕はムチャクチャといっていいくらいツボに入った。
こちらもロイのモーション・キャプチャーを使って作り出したらしいが、
画面を見ている限りは、ウンパ・ルンパが本当に実在すると思ってもしかたがないくらい。
ただ、僕はツボに入ったのでずっとクスクス笑っていたのだが、
これをキモいと感じてしまうと、ちょっときついらしい。
キモかわいい、と感じられないと、戸惑い続けての鑑賞ともなりえるようだ。


映画の冒頭で語られる通り、最後にチャーリーは〝世界一の〟幸福を手にする。
まあ、これをもって世界一とするのもどうかと思うが、
子どものころ絵本で見た〝お菓子の島〟に夢中になった僕には、なかなか悪くない幸福だ。
劇場を後にすると、
前日の「銀河ヒッチハイクガイド」同様、原作本が無性に読みたくなる。
原作のイメージを、バートンはどんな具合に膨らませたのか、確かめてみるのも悪くない。

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

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