梅田はナビオTOHOプレックスで「銀河ヒッチハイクガイド」。

mike-cat2005-09-11



劇場で予告をろくに観た記憶がない。
けっこう唐突な公開の印象があるんだが、何かコケた関係だろうか。
しかし、早いに越したことはないのだが、こんなにひっそりと公開でいいのか?
原作は、英国を中心に、熱烈なファンを多く抱えることで知られる、SFコメディの傑作。
何度と映画化が企画されながらも、その壮大なスケールなどもあり、その都度ポシャってきたと聞く。
ネット予告などでは、かなり大々的なプロモーションも行われてきたように見えるが、
日本では、チラシをちょいと見かけたぐらい。公開はいつになるのやら…、と思っていた矢先だった。
1982年発行の新潮文庫版「銀河ヒッチハイク・ガイド (新潮文庫)」が長らく絶版となっていたけど、
そのスジでは〝幻の傑作〟として、復刊が待ち望まれていたと聞く。
僕も実際読んだのは中学1年生の時だったし、現物をいつの間にか処分してしまったので、
細かい内容をよく覚えておらず、映画化を聞いた時は、
復刊への期待を膨らますとともに「早く観たい!!」と心待ちにしていたものだった。


で、ベストセラーが原作の映画化といえば、原作のイメージとの相違が常に問題になる。
あの「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」では、
当初原作者のアン・ライストム・クルーズ=ヴァンパイア・レスタトにクレームをつけたこともあった。
(もっとも、映画ができてからは〝褒め〟に回っていたようだが)
この映画もテレビシリーズを含めた熱狂的ファンがいるだけに、そうした声は多かったのではないかと思う。
僕の場合はなにぶん読んだのがふた昔前とあって、あまりこだわりはなし。
ただ、あの大胆な発想の映像化と、オフビートな笑いのテイストを活かして欲しい、ぐらい。
脚本は原作者ダグラス・アダムズの遺稿を素にしてると聞いていたので、それなりに気楽に臨んだ。


英国の片田舎に暮らすアーサー・デントはとても平均的な英国人。
ある日、そのアーサーの家が取り壊しの危機に見舞われる。
何でも都市間バイパスを通すための建設用地になっていたらしい。
抵抗しようとするアーサーのもとに、親友フォードが現れる。「すぐ、脱出しよう」。
フォードいわく、銀河バイパス建設のため、地球が取り壊されるからだという。
実はこのフォード、銀河最大のベストセラー「銀河ヒッチハイクガイド」の編集者だった。
かくして地球唯一の生き残りとなったアーサーは、銀河をヒッチハイクで彷徨うことになった…


監督は長編映画で初のメガホンとなるガース・ジェニングス。いわゆるMTV系の新鋭だ。
製作総指揮・脚本に原作者の故ダグラス・アダムズ、
製作に「オースティン・パワーズ」のジェイ・ローチが名を連ねる。
比較的原作に忠実な作りらしいが、
イルカがミュージカルを演じる場面を冒頭に持ってくる、
というのはジェニングスのアイデアの部分だ。
実は人間は地球で3番目に賢い生物だった、という衝撃の事実。
2番目はイルカ。じゃあ、1番賢いのは、何だったの? と問いの答えは、最後に明かされる。
地球をめぐる、壮大な秘密の導入として、このオープニングは、なかなかどうして悪くない。


そのいい感じの導入を受けて登場するのが、
英国系を中心に決して派手ではないけど、実質重視で豪華に集められた出演陣だ。
たとえば、主役のアーサー・デントは「ラブ・アクチュアリー」で、
ラブシーンのボディ・ダブルを演じていたマーティン・フリーマンが演じる。
あのトボけた味、そのまんま〝平均的英国人〟っぽくて、
たてつづけに繰り出されるオフビートなギャグを引き立たせる。
「銀河ヒッチハイクガイド」の編集者、フォードには「チョコレート」「ミニミニ大作戦」のモス・デフ
アホ丸出しの銀河大統領に「コンフェッション」「チャーリーズ・エンジェル」のサム・ロックウェル
アーサーが恋心を抱くトリシアには「ケイティ」「あの頃ペニー・レインと」のズーイー・デシャネル
ほかにも、ジョン・マルコヴィッチ(「マルコヴィッチの穴」)は間抜けそのもののヘンな宗教の教祖さまを演じていたり、
アラン・リックマン(「ダイ・ハード」「ギャラクシー・ウォーズ」)が憂鬱気質のアンドロイド、マーヴィンの声を演じてみたり、
そのマーヴィンの中には、「ウィロー」のワーウィック・デーヴィスが入ってみたり、
スティーヴン・フライ(「ゴスフォード・パーク」)が電子ブックの形を取るヒッチハイクガイドのナレーターを務めてみたり、
ビル・ナイ(「ラブ・アクチュアリー」のベテラン・シンガー)が、宇宙的なデザイナーを演じてみたり…


挙げだしたらキリがないくらいの、実力派、個性派が顔を並べ、
この独特の雰囲気を醸し出す壮大なSFコメディを展開していく。
映画好きなら、こうしたメンツだけでも、もうおなかいっぱいになるくらいの高カロリー。
だが、そうしたメンバーを使い惜しみもせず、使いすぎもせず、でそれぞれの味を引き立たせているのだから、
このジェニングス、監督としてのセンスは、かなりのものかも知れない。


で、本筋のSFの世界観そのものを観ても、あらためて感心させられる。
まずはいきなりの地球消滅。
「ID4」では、ウィル・スミスやビル・プルマンが危険を顧みずに守り抜き、
アルマゲドン」では、ブルース・ウィリスが命を投げ出して守り抜いた、
大事な大事な地球は、映画が始まってものの10分かそこらであっさりと木っ端みじんだ。
この発想、原作を読んだときにもぶっ飛んだが、つくづく凄い。
そこから次々と登場する、さまざまなギミック、そして、宇宙最古のコンピューターが導き出す〝究極の答え〟の衝撃。
どれをとっても、そのユニークな発想にただただ脱帽させられる。


電子ブックの形態を取る「ヒッチハイクガイド」にしても、
英国で出版された1979年当時に、よくぞダグラス・アダムズはこんなものを思いついた、というくらいの逸品。
その発想自体ももちろんすごいのだが、それをコンピューター全盛のいまの世の中においても、
先進のテクノロジーのように感じさせる、アニメーションを使ったこの映画のビジュアルも秀逸だ。
これ、このまんまパロディサイトとかで作ってくれたら、と思うくらい。(いや、実際あるかも知れないが)


SFコメディの傑作というと、不滅の名作「ギャラクシー・ウォーズ」があるが、
あれには及ばないまでも、ほかに類を見ない、その独特な味わいは、もうたまらない。
観終わると、原作を再読したくなること、請け合いだ。
帰り道は、といえば、もちろん、新訳の河出文庫版をゲット。

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

さ、早く読もうっと♪