天王寺アポロシネマ8で「バットマン・ビギンズ」
各方面で評判がよかったので、満を持して観に行く。
「バットマン」といえば、カルト的趣味に走りつつ、
なおかつ興行面でも大成功したティム・バートン版はともかく、
〝ミスター無難〟ジョエル・シュマッカーが撮るようになってからは、
その独特のダークな世界観と、娯楽性の狭間で、苦しんできた印象が強い。
正直いって、鑑賞に耐えるのは「バットマン・リターンズ」まで。
それ以降は、「バットマン・フォーエバー」や「バットマン&ロビン」と
どれを観ても、豪華キャストによる空回りを続けるばかりだった。
ま、もっと単純な問題として、作りすぎ、というのもあるのだが。
それが、キャストも監督も一新し、バットマン誕生の原点に帰るという。
それも、監督が「メメント」「インソムニア」のクリストファー・ノーラン。
期待をせずにはいられなかったけど、一抹の不安もあった。
バットマン役が「マシニスト」「アメリカン・サイコ」のクリスチャン・ベイル。
何か顔が間延びしてないかなぁ、と微妙な感覚だった。
まあ、初代バットマンだって意外や意外、
マイケル・キートンがハマってたことを考えれば、大丈夫かもしれないし、とも思ったが。
いわゆる客寄せパンダ的な豪華スターはいないけど、
渋いベテラン俳優陣が、あまりにも豪華に配してあるのも、引っ掛かった。
こんな凄いヒトたち、使い切れるの?、という単純な疑問。
顔見せ的な感じで出られても困るし、存在感ありすぎでも困る。
バランス的に、難しいんじゃないかな、というのが予想だった。
しかし、そういったもろもろの不安は、けっこうあっさり払拭される。
ま、クリスチャン・ベイルについては、賛否両論あるかも知れないけど、及第点。
バットマンのマスクともども、地肌が見えてる口部分が微妙にカッコ悪いんだけど、
ヴァル・キルマーより全然いいし、ジョージ・クルーニーみたいに濃すぎない。
マイケル・キートンほどじゃないが、決して悪くはない。
まあ、いつ名刺の出来をめぐって、隣のヤツを殺してしまう(「アメリカン・サイコ」)のか、
そんな妄想が頭をよぎらなかったか、といえば、よぎったんだけど。
豪華なベテラン勢も、うまく使えていたと思う。
リーアム・ニーソン、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマンに、
ゲイリー・オールドマン、トム・ウィルキンソン、ルトガー・ハウアー…
リーアム・ニーソンは、「スター・ウォーズ」のアナキン・スカイウォーカーに続いて、
バットマンまで見出していたとは! という笑いは抜きにして、やっぱり貫録十分。
アルフレッド役のマイケル・ケインは、コメディ・センスも含め、
〝先代〟アルフレッドのマイケル・ガフに匹敵するいい感じの雰囲気を醸し出している。
モーガン・フリーマンは出ているだけでだいぶ反則ではあるけど、
これはこれで、まだ未熟なバットマンをカバーする意味でも、絶妙のスパイス。
ゲイリー・オールドマンといえば、「レオン」「蜘蛛女」と悪徳刑事の代名詞で、
何か善玉刑事がムチャクチャ似合わないけど、今回は脱力した刑事役が、妙に面白い。
「イン・ザ・ベッドルーム」トム・ウィルキンソンも、
ちょいと無駄遣い感あるけど、映画全体のバランスを考えるといい使い方だと思う。
ルトガー・ハウアーは、途中まで気付かなかった。歳取ったのね。
でも、にじみ出るヒトの悪さが、これまたいい味を出していたんじゃないだろうか。
ああ、渡辺謙? あれはあくまでチョイ役。
ま、ハリウッドではまだまだ新人だし、しかたない。
で、肝心の映画そのものの出来だ。
完成度の高さではバートン版「バットマン」には及ばないけど、
バットマンというキャラクターへの思い入れを脇に置いて、
単純に娯楽大作として見たら、満足度は正直なトコ上回っているかもしれない。
弱点は確かにある。
たとえば、スケアクロウのキリアン・マーフィー(「28日後」)は、ちょっと印象が薄いし、
ヒロインのケイティー・ホルムズも、実生活はともかく、
女優として、美しさの方は旬は過ぎてる感が強い。(昔かわいかったのに…)
だが、こういうとこを差っ引いても、率直に面白い。
序盤から見どころ満載だし、ドラマ的な部分もまずまずきっちり描いてる。
ストーリーも、いい感じにひとひねりあって、大人の鑑賞に耐えうるレベルになっている。
そうそう、バットマンといえば、バットモービルだが、こちらもなかなか凄い。
バートン版のアメ車っぽいノリのも好きだった。
あの、高速で曲がる時は、ワイヤーをどっかに引っかけて曲がる、究極のムダ車。
今作のタンクっぽいのは、実用性一辺倒のフォルムに、
最初はちょっと引っ掛かったが、実際のカーアクションを観て納得した。超クールだ。
最後のヒキも、なかなかうまかったと思う。
あれならファンは、次回作への期待でワクワクしながら、
エンドクレジットを見つめることができる。
ちなみに、http://www.allcinema.net/によれば、
バートン版で演じた〝ジョーカー〟が再登場とのこと。
どうも、前作まではチャラにして、全部作り直し、ということらしい。
ノーラン監督は、ショーン・ペンを希望しているとの情報だけど、
かなり期待と不安が入り交じる。たぶん、ペンが受けないだろうけどね。
バートン版「バットマン」の時みたいな、スペシャル感には欠けるけど、
夏の大作として、見逃せない一本には仕上がっている。
少なくとも「宇宙戦争」よりは全然上だし、
これまでの5作品(もしくは2作品)を観ていないヒトには「スター・ウォーズ」とも互角かも。
140分という長尺も、さほど気にならなかった。
次回作への期待も込めて、Two Thumbs Up! の作品だった。