心斎橋はパラダイスシネマで「ティム・バートンのコープスブライド」

mike-cat2005-10-24



チャーリーとチョコレート工場」と同時進行で製作されたバートン最新作。
ジョニー・デップの主演(こちらは声の出演だが)まで、同じだったりする。
加えて「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」(製作)以来の、
ストップモーション・アニメということで、期待値のかなり高い作品だった。


舞台は19世紀のヨーロッパ。
ビクターとビクトリアは、翌日に結婚式を控えたカップル。
没落貴族と成金の政略結婚にも関わらず、
この日初めて顔を合わせた二人は、まるで磁石のように惹かれ合う。
結婚式のリハーサルで、しどろもどろとなったビクターはその夜、
森の中で誓いの言葉を繰り返し練習する。
ようやく澱みなく誓いの言葉を終え、近くの枝に指輪をはめるビクター。
しかし、その地面の下から、白骨化したコープス・ブライド(死体の花嫁)が現れる。
ビクターは現世に未練を残した霊魂・エミリーと、愛の誓いを交わしてしまったのだった。


ストーリーの方はまあ、ご想像の通りである。
ビクターの困惑、ビクトリアの絶望、エミリーの希望などなど、
各自の思惑と気持ちが迷走し、錯綜する。
意外性はないが、とても綺麗にまとまったラブストーリーでもある。
泣ける、とまではいかないまでも、ラストではグッと込み上げるものもあったりして、
おとぎ話としてなかなかの水準に達していると思う。


しかし、この映画ではあくまでストーリーは添え物、といっていい。
「ナイトメア〜」でも、趣味全開のハロウィーン・ワールドを描いたバートンは、
またも趣味まるだし&全開で、何ともいえない〝死後の世界〟を描いてみせる。
「ああ、バートンはこれがやりたかったんだな」と思わせるのが、
あの世の酒場に連れ込まれたビクターが目の当たりにする、
死者たちが演じる、華麗なミュージカルだ。
(うちの奥さまは笑って〝ホネホネロックじゃん〟とのたまわれた。)
死んだように活気のない、寒々としたこの世とは対称的に、
あの世は生き生きとした、カラフルな世界に描かれている。
まあ、悪趣味といえば悪趣味なのだが、それがまた楽しいのも、
バートンならでは、という感じだ。


また、政略結婚や詐欺などが横行するこの世と違い、
あの世の人たちは、とてもいい人揃い。
念願かなって、〝自由にしてくれる〟人を見つけたエミリーを全力で応援するのだ。
そんなあの世の人たちに魅せられ、
優柔不断なボンクラから次第に成長するビクターの姿も、なかなかよかったりする。


「ナイトメア〜」ほど、魅力的なキャラクターに溢れているわけではないが、
それでも、味わい深い登場人物には事欠かない。
中でも、たまらないのが、ビクターの〝かつての愛犬〟スクラップスだ。
いまは柔らかい毛皮も、肉もなくなった、骨だけの犬。
しかし、これがまたかわいいのだ。
このスクラップスだけで、スピンオフ映画、1本作って欲しいくらい。
エミリーの頭の中に住んでいるうじ虫(尺取り虫?)も、
あまりに不細工過ぎてやや理解に苦しんだりもするが、アイデア的にはナイス。
ほかにも、ヘンなバーテンダーだとか、子どものがい骨だとか、
楽しい仕掛けに溢れた作品に仕上がっている。


声優陣もデップ=ビクターに加え、
エミリーに、バートン妻のヘレナ・ボナム=カーター(「ファイト・クラブ」)
ビクトリアに、エミリー・ワトソン奇跡の海
ほかにもアルバート・フィニー(「エリン・ブロコビッチ」)、
クリストファー・リー(「スター・ウォーズ」シリーズ)、
マイケル・ガフ(「バットマン」「スリーピーホロウ」)、
ジェーン・ホロックス(「リトル・ヴォイス」)
ディープ・ロイ (「チャーリーとチョコレート工場」のウンパルンパ♪)
絶妙の音楽スコアを提供したダニー・エルフマンも、声で出演していたりする。
豪華なだけでなく、非常にバランスの取れた、最高のキャストが揃った。
それだけでも、「必見」といいたくなるような感覚を覚えてしまう。


ただ、不満もないわけではない。
それは、ストップモーション・アニメの出来。
だが、出来が悪いわけではない。良すぎるのだ。
風にゆらめく髪や花嫁のベール、たぷたぷと動く肉の揺れ…
すごいとしか言いようがないのだが、
そのあまりにリアルな動きが、逆効果になっている面もある。
あのストップモーション独特の、心地よいぎこちなさがなくなり、
まるでCGのように感じられてしまうのだ。
まあ、あの〝カクカク感〟をよしとするか否かは好みの問題ではあるので、
一概にどうこう言えない気もしないでもないのだが、
やはり、ストップモーションっぽくない、というのが率直な感想だ。
技術的には古いのだろうが「ナイトメア〜」の方に、味がある気はする。


とはいえ、映画としてのクオリティはかなり高い。
こういうのがお嫌いでなければ、必見の一本といっていい。
ついでにいえば、DVDが出れば、ぜひ買っておきたい一本。
バートンのフィルモグラフィーに、また一本傑作が追加された、と言いたい。