TOHOシネマズなんばで「トリスタンとイゾルデ」

mike-cat2006-10-25



〝「ロミオとジュリエット」の悲劇は、ここから生まれた
 愛は死より切なく、そして尊い
 史上最も美しい、禁じられた愛の物語〟
イングランドの騎士トリスタンと、
アイルランド王妃の許されない愛を描く、
すべてのラブストーリーの原典ともいえる、ケルトの伝説だ。


トリスタンに「スパイダーマン」のジェームズ・フランコ
ゾルデに「サンダーバード」「アンダーワールド」のソフィア・マイルズ
監督に「ロビン・フッド」「ウォーターワールド」のケヴィン・レイノルズを迎え、
リドリー&トニーのスコット兄弟のスコット・フリー・プロダクションが製作。
甘く切ないロマンスと力強いアクションで、1500年前の悲恋を描く。


ローマ帝国の崩壊後、グレートブリテン島は暗黒の時代を迎えた。
荒れ果てた国土を支配するのはアイルランド王ドナカー。
冷酷なドナカーの軍隊によって、多くの血が流された。
ドナカーの軍によって、領主だった親を失ったトリスタンは、
コーンウォールの慈悲深き領主マークによって命を救われ、育てられる。
一方、アイルランドの王妃として育ったイゾルデは、
父の野望の道具として、望まぬ婚約を強いられていた。
そんな、出会うはずのないふたりが出会ったとき、悲しい恋が始まった。
愛に生きるべきか、忠義に生きるべきか−
ふたりを引き裂く皮肉な運命は、さらなる悲劇を用意していた。


ロマンスで何が美しいって、悲恋ほど美しいものはない。
悲しき宿命に逆らう、抑えることのできない愛−
もっともシンプルでありながら、最強の図式である。
コーンウォール、そしてアイルランドの壮大な風景、
しきたりと因習にとらわれた時代ならではの、ロマンチックな舞台設定。
きちんとツボさえ抑えておけば、
間違いなく〝泣ける〟ラブストーリーのできあがり、のはずだ。


しかし、泣けないのだ。少なくとも、ふたりの恋愛に関しては…
なぜか。
率直にいうと、悪いのはぜんぶ、トリスタン=フランコである。
その〝悪行〟をならべていけば、きりがなくなるのだが、まずは冒頭の場面だ。
戦いのさなか、バカなガキがしゃしゃり出たばかりに、
それに気を取られて父が殺され、守るものを失った母も殺される。
ついでにガキを救うためにマーク王も右腕を失う、という散々なことに。
あくまでも脚本上の問題ではあるのだが、
このガキが余分なことをしなければ、もっと被害は少なかったのでは? の感は強い。


そして、愛に生きるか、忠義に生きるかの局面での中途半端な判断。
何度か局面は訪れるのである。
アイルランドの浜辺、イングランドへ向かう船の中…
だが、イゾルデから「一緒に逃げて!」と懇願されても、
「それはできない」「受け容れるしかない」を繰り返す、煮え切らないトリスタン。
すべては忠義のため、と愛を棄てたはずなのだが、実はとんでもなくあきらめが悪い。
「受け容れろ」と言ったそばからあからさまに嫉妬の炎を燃やして不機嫌バリバリ、
ストーカーよろしくイゾルデの周りをつきまとったかと思えば、
間男よろしく、こそこそと逢瀬を重ねる、というかそこら中で×××に励む。
結局オノレはどうしたいのか! と、怒鳴りつけたくなるほどどっちつかずなのだ。


大まかなストーリーの流れとしては、別におかしくない。
だが、トリスタンの行動にまったく抑制というものが感じられないのが最大の敗因だ。
その行動様式は、悲しき運命に逆らう男というより、単にカッコつけた身勝手なガキ。
何が自分にとってのファースト・プライオリティーなのかもわからないまま、
愛も裏切り、忠義も裏切り、事態をどんどん最悪の方向に導いていく。
こんな男には、とてもじゃないが感情移入できない、というところだろうか。
そしてフランコ得意の拗ねた目つき、そしてワンパターンの演技も、
その甘えたガキ的なトリスタン観を、さらに倍加させるような効果をもたらしてしまう。


だが、そんなトリスタンを向こうに回し、やたらと泣かせる男もいる。
こんなバカガキを命を懸けて救い、育てた挙げ句、
次の王位まで…と目をかけていたのに、
その恩義をすべて裏切られたマーク王だ。
すべてを失おうという最悪の事態においても、
この大人物は、トリスタンへの愛情を捨てることはない。
息子として愛しながら裏切った男、妻として愛しながら裏切った女へ、
慈悲深き王は、出来うる限り、最高の思いやりを持って、その処遇を決める。
しかし、それすらもバカトリスタンは台無しにしてしまうのだ。


途中からは、もう半分トリスタンのバカぶりを面白がる、
一種のブラック・コメディの様相を呈してくる。
それはそれで、なかなか悪くない面白さではあるのだが、
この映画に期待していた部分は、完全に裏切られてしまった格好だ。
ぷくぷくほっぺの可愛いソフィア・マイルズや、
(こちらも、賛否両論ありそうだが)
マーク王を演じたルーファス・シーウェル(「ダーク・シティ」)の熱演、
そして、迫力のアクションや、格調ある映像の効果もあって、
〝観られる〟映画に仕上がっていながら、
本来のロマンスには全然涙できない、というヘンな作品でもある。


エンドクレジット。
「マーク王はいったいどうやってあの哀しみを受け止めればいいのか」とか、
「あれじゃイゾルデ、かわいそうだよな」とか、
「というか、とばっちり喰って死んだ部下たちは浮かばれないよ」とか…
何だか全然テーマからかけ離れた想いばかりが頭をよぎるのだった。