TOHOシネマズなんばで「プラダを着た悪魔」

mike-cat2006-11-21



〝こんな最高の職場なら、死んでもいい!
 こんな最悪の上司の下で、死にたくない!
 恋に仕事にがんばるあなたの物語。〟
ローレン・ワイズバーガー原作の、
ベストセラー小説「プラダを着た悪魔」を映画化。
主人公のアンディに「プリティ・プリンセス」のアン・ハサウェイ
悪魔のような上司ミランダに「アダプテーション」のメリル・ストリープ
アンディを支えるゲイ(?)のナイジェルには、
ハリウッド版「シャル・ウィ・ダンス」が印象深いスタンリー・トゥッチを迎え、
ゴージャスそのもののファッション誌の世界を描いていく。


NYでジャーナリストを夢見るアンディが採用されたのは、
モードを動かす超一流ファッション誌〝RUNWAY〟の編集部。
それも、業界の顔としてだけでなく、
サディストの専制君主として知られる、ミランダ編集長のアシスタント。
ファッションの基本すらまったくなってないアンディは、
周囲の冷たい視線の中で、次々と投げかけられる無理難題に挑んでいくが−


何よりも見ものは、超一流ファッション誌ならではの豪華絢爛な世界だろう。
プラダにシャネル、ディオールエルメスといったお馴染みのブランドを始め、
現在のモードを代表する、ありとあらゆるブランドのファッションが画面を彩る。
最初は「ガッバーナのスペルって?」なんてやっていた、
ダサくて、イケてないアンディ=アン・ハサウェイが、
どんどん洗練されていく姿は、「プリティ・プリンセス」に被る感じもあるが、
王道のシンデレラ・ストーリーを地で行っていて、なかなかに心地よい。


ジョン・ガリアーノディオールジバンシィ)に、
トム・フォード(グッチ、イヴ・サンローラン・リヴゴーシュ)、
カール・ラガーフェルド(フェンディ、シャネル)といった、
デザイナーたちの名前もどんどん出てくるので、
ファッションに興味のある方なら、聞いているだけで気分は上々。
NY、そしてパリを舞台にした、ゴージャス&ラグジュアリーな世界は、
見ているだけでうっとりとしてしまうぐらいの、艶やかさに満ちている。


そして、もうひとつの目玉は、何といってもメリル・ストリープ
とんでもない命令を繰り出すだけでなく、
部下を人間として扱わない悪魔の上司、ミランダを喜々として演じている。
その小気味のいい意地悪ぶり、サディストぶりたるや、
この名女優をしても、ここ10数年でも屈指の当たり役といっていい。
特に映画序盤は、ストリープの表情ひとつだけでも笑いが止まらないほどだ。


鞭があれば、飴も、というわけで、
怒られてばかりのアンディを支えるのが、トゥッチ演じるナイジェル。
明快にゲイという説明はないが、いい人=ゲイという典型的な役割を、
トゥッチならではの独特の存在感で、見事に演じ上げていく。
思っていたより出番が少ない気もするが、それはそれで効果的にも感じられる。
ちょっとした悲哀を感じさせるあたりは、もう助演賞ものといっていいだろう。


「マイアミ・ラプソディー」のデヴィッド・フランケルによる演出もテンポがよく、
ゴージャスさだけで終わらせない、小気味のいい作品となっている。
ミランダのサディストぶりを、いわゆる〝いじめ〟に感じさせない、
バランス感覚にもなかなか優れており、あくまで軽妙なコメディとして楽しめる。


だが、問題がないわけではない。
一番の問題は、価値観の部分だろう。
ミランダのやり方、生き方に辟易しながらも、
そのプロフェッショナリズムに次第に傾倒していったり、
それまでバカにしていたファッション業界のこだわりについても、次第に理解していく。
ターコイズのベルトをめぐる議論を鼻で笑ったアンディが、
着ていたブルーのセーターが〝ファッションに関係ない〟自分のもとに届くまでを、
懇々と諭される場面などは、なかなかに秀逸な説明に仕上がっている。
やや長くなったが、ここまではいいのだ。


しかし、そうやってようやく〝ものごとの道理〟を理解したはずのアンディが、
彼女の奮闘を理解しないつまらないオトコや、
彼女の成功に嫉妬するバカな友達の影響で、再び日和ってしまうのがいただけない。
「何だよ、だったら最初からこんな仕事するなよ!」といいたくなるラストは、陳腐さが臭う。
ミランダの懐の大きさ、というか、キャラクターの魅力で救われる面もあるが、
自分の求める道と、いまの仕事が合う合わない、という問題が、
仕事と恋人・友人のどっちが大事? という問題にすり替えられ、
プロフェッショナリズムや、仕事の意味などがないがしろにされるのはどうなんだろう。
そこまでの上々な気分が、このラストで台無しにされてしまうのが、ガマンならない。
つまらないオトコや、どうでもいい友人は振り捨てる、
斬新なラストもあってよかったんじゃないか、と、強く思いもするのだ。


冒頭から100分間は90点の作品も、結局はこのラスト10分で大きく減点。
おまけにこの劇場のスクリーン1は、構造上の欠陥もあって、
エンドクレジットの間中目の前を横切る(それも頭も低くせず)無遠慮な客が多く、
ついさっきまでのゴージャスな気分は、ほとんど台無しになる。
年配の女性客にありがちなレジ袋のカシャカシャ音も断続的に聞こえ、
終わってみれば、不快感の方が勝っているという、何ともさえない結末。
大阪では日常茶飯事ではあるのだが、
映画のぶち壊し感と相まって、何だか怒りを抑えられなかったのだった。