内澤旬子「世界屠畜紀行」

mike-cat2007-02-20



〝見たい 知りたい 肉のつくりかた〟
2/11付朝日新聞書評で気になった1冊は、
イラストルポライターによる世界の屠畜場ルポ。
アメリカ、イラン、インド、エジプト、韓国、チェコ
 モンゴル、東京、沖縄………
 見てきました「動物が肉になるまで」〟


ふだん口にしているのに、その作業過程を知る機会が少ない、お肉のこと。
不当な差別に苦しめられてきた人たちが絡む以上、
メディアなどでも、どうしても避けられがちな話題ではあるが、
単純に〝どうやって食卓まで届くのか〟という部分には以前から興味があった。


農産物の品質であったり、工業製品の内容表示であったり、
そういったものは気にしてきたが、お肉となると、例のBSE問題や、
和牛と国産牛の違いや、豪州産、中国産といった区別程度の知識のみ。
ましてや、BSE問題なんかも、業界への過剰な配慮からか、どうもわかりにくい。
だが、この本の中では、
芝浦と場(屠場=この言い換えも違和感があるが)での綿密な取材を行い、
豚や牛がどんな工程を経てお肉やモツ、
そして皮革製品の材料などになっていくか、詳細にレポートされていく。
この作者は、動物が絶命する一工程のみを指す〝屠殺〟ではなく、
動物がお肉になるまでの全過程を指した〝屠畜〟という言葉を用いる理由がよくわかる。


ふだんの生活では、パックに入った切れ端や、
かたまりでしか見ることのない肉が、どんな過程をたどったかを知ることは、
自分たちが食べているものを知る、
自分たちがほかの〝生命〟を食べて生きていることを知る、
〝食育〟の一環として、いま教育の現場でも見直されているという。
そんな意味での社会見学としても、興味深いのではないかと思う。


そして、さらに興味深いのが、やはり世界の屠畜模様だろう。
イスラム圏における戒律に従って処理された肉〝ハラル・ミート〟、
ポシンタン、つまり韓国における犬肉、エジプトのラクダ、
モンゴルの羊、沖縄の山羊、チェコの豚、インドでの牛…
もちろん、肉になったそれらが、料理としても登場する。
沖縄では東風平まで山羊の握り寿司を食べに行ったクチとしては、
もう味を思い出したり、想像したり、というだけでも面白い。
旅&食のコラム、エッセイとしても、なかなか楽しめる1冊なのである。


そして、各国において、屠畜という仕事を、
かつての日本のように〝穢れ〟と考えるかどうか、
もし考えるならどこにその起源があるのか、
そういった問題意識もきちんと抑えつつ、世界の旅は続いていく。
根本的には仏教における殺生感が、おかしな方向にねじ曲げられていたり、
「動物をかわいそう」と思う気持ちが、なぜか間違った方向に暴走してみたり…
動物愛護活動で有名なブリジット・バルドーなどによる、
見当外れで、差別的な言動などは、つくづくバカバカしく思えてくる。
そうした考察も、さらりとだが、しっかり述べられていて読み応えも十分だ。


ボリューム的にややヘビーな割に、アメリカがわずか1章のみ、
ヨーロッパ、南米なども十分には取り上げられていない点と、
屠畜の現場で作者が「わたしは平気だが、みんなは…」と、
必要以上に繰り返すのがやや鬱陶しいのが残念ではあるが、
興味深い1冊ではあることは間違いない。
久しぶりにアラブ料理や沖縄の山羊料理が食べたくなってしまうのに、
すぐにはありつけない、というのがなかなか悩ましいところではあるのだが…


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世界屠畜紀行
世界屠畜紀行
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2.13
内沢 旬子著
解放出版社 (2007.2)
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