イモジェン・エドワード・ジョーンズ&匿名「誰も知らない五つ星ホテルの24時間―匿名ホテルマンの爆笑告白記」

mike-cat2006-04-11



英BBCでTVドラマ化(それも大人気!)されたという、
ベテランホテルマンによる匿名の裏側暴露、である。
文春文庫で出てたジェフリー・ロビンソンの
扉の向こうに隠された世界 ザ・ホテル (文春文庫)」というのもあったが、
あちらはあくまで、ノンフィクション形式の読み物。
こちらは、ロンドンの高級ホテルで起こったさまざまなエピソードを、
あるレセプション係の一日として小説風に仕立てた、ドラマである。


架空のホテル「バビロン」を舞台に巻き起こる、とんでもない事件。
50ポンド紙幣(約1万円)をばらまくテキサスの大富豪に、
客室で「プリティ・ウーマンごっこに講じるコールガールたち、
とんでもないモノを持ち込み、酔って破壊の限りを尽くすセレブたちに、
セックス電話の請求書にねちねちと文句をつけるビジネスマン、
テルマンの誘惑に余念がない人妻に、
信じられないような置き土産をしていく淑女たち、
そして、ヒマさえあれば惰眠を貪り、チップに群がるホテルマンたち…
レセプション係の?俺?は一時たりとも、気が休まることはない−。


高級ホテルって、何だか非日常を感じさせる場所である。
だから、僕らのような一般人は思わず浮かれてハメを外したくなるし、
使い慣れている客やセレブに至っては、もっとハメを外したくなる場所のようである。
もちろん、僕はこの小説に出てくるような、とんでもない真似をしたことない(はず)だし、
あくまで笑い話として、この小説を楽しめるんだけど、
何となく、小説の登場人物(というか実在の人物たち)の気持ちがわからなくもない。
だって、やっぱり高級ホテルって、何だか特別な空間のような気がするのである。


そんな部分を語る?俺?の独白が、なかなか味わい深い。
?普段の生活では、パートナーともきちんとバランスの取れた関係を保ち、
 マナーも完璧、という上品な人間でも、どういうわけか、
 ホテルの回転ドアを通ったとたんにいつもの行動パターンが影を潜めるらしいんだな。
 境界線がずれて約束のルールが変わり、責任感ってものを忘れてしまう。
 そして、心のどっかに巣くういけすかない女や
 ろくでなしの男の部分が、急に増長してくるんだ。
 それから、みんな自分が透明人間だと勘違いしている節もある。
 酔っぱらったロックスターみたいに振る舞っておきながら、
 翌日はいたいけな子どもみたいに無邪気な顔でレセプションに現れるんだ。?
その挙げ句の行動が、この小説で取り上げられた蛮行の数々だ。


もちろん、蛮行ばかりがホテルの裏側というわけではない。
チップが頼りのホテル業界において、
最低賃金にも関わらずチップにもありつけない清掃員たちの悲哀や、
蛮行の後始末に駆り出されるメイド係の苦労話などに涙したり、
ホテルで供されるサービスの数々の本当の値段に驚かされたりもする。
しかし、何より驚いたのは、
ホテルお馴染み、いわゆるロックスターによる部屋の大破壊がもたらす?効果?だ。
よくゴシップ記事に「ホテル側は甚大な被害!」とかあるが、実は…、というお話。
あらためて考えれば、なるほどそうだよね、なんだが、感心するエピソードでもある。


そんなこんなで、さまざまな驚きが詰まった一冊。
まずは読んでのお楽しみ、ということで、ぜひにお勧めしたい一冊でもある。
ちなみにこの作者、これまた蛮行の名所、飛行機編も執筆中だとか。
BBCのドラマも是非見たちところだが、NHKさん、土曜深夜あたりにいかがでしょ?
韓流ドラマももう、いいんじゃないの? と思い続けてはやいく年…
メロドラマもいいけど、こういうこじゃれたドラマを放映してこそのNHKじゃないの?
と、身勝手なことを書き連ねて、レビューを終えることにしたい。 

Amazon.co.jp誰も知らない五つ星ホテルの24時間―匿名ホテルマンの爆笑告白記