グレッグ・ルッカ「耽溺者 (講談社文庫)」

mike-cat2005-09-26



本の雑誌の「翻訳小説が売れない」特集で、
訳者の古沢嘉通が「こんなに面白いのに売れない」と嘆いていた一冊。
訳者の言葉をそのまんま鵜呑みにするのもどうかと思うし、
オビの惹句が、最近そこら中で絶賛しすぎてスティーヴン・キング化してる北上次郎
どうかなあ×2を感じつつも、そこまで言うんなら、と読んでみる。


ルッカは昨年「わが手に雨を」を読んでいた。忘れていたけど。
当時のブログを見返すと、
〝映画でいえば、そこそこ出来のいいハリウッド・サスペンス〟とか書いてる。
守護者 (講談社文庫)」から始まる、ボディガード、アティカスのシリーズを読みたい、とも。
そこまで書いておきながら、まる一年忘れていたわけなのだが、
まあよいではないか、よいではないか、あれご無体な…、
とか書いてると欲求不満みたいだな…
で、この「耽溺者」は、その〝準〟スピンアウト。
アティカスとちょいモメ気味の恋人ブリジットが主役を張っているのだが、
何で〝準〟かというと、
基本はブリジットの一人称語りなのだが、途中アティカスの一人称も混ざるから。
スピンアウトから、というのも微妙だけど、
まあよいではないか(以下略)と読み始めてみた。


本編は腕利きの私立探偵ブリジット・ローガンの少女時代の回想から始まる。
NYCきっての警官だった父との愛に包まれた思い出、
そして、その愛を裏切り、ヘロインに溺れたその後の転落…
更生施設で自殺を図ったブリジットを救ったのは、当時妊娠していたライザだった。
舞台は現在に移り、そのライザからブリジットのもとにS.O.S.のコールがかかる。
ジャンキー時代のヒモ、ヴィンスに命を脅かされている、という。
ライザと、その息子ゲイブリエルを守るため立ち上がったブリジット。
しかし、いきなり持ち上がった殺人事件がライザたちを窮地に陥れる。
ライザを、ゲイブリエルを守るため、ブリジットが採った選択とは…


この小説の最大の魅力は、もちろんブリジットだ。
身長185センチのスカンディナビア系。漆黒の髪。見事に青い瞳。
ポルシェ・カレラ911でNYを走り抜ける、粋な女探偵。
そして、とても口が悪く、とても性格がきつく、とてもプライドが高い。
見事なまでのハードボイルドなキャラクターなのだ。
ただ、この小説ではそのバックボーンや、意外な弱さも描かれる。
よって、僕みたいに本筋のシリーズ作品を読んでいない読者には、
むしろ弱さの一面みたいな方が強く印象に残ってしまう、
という弊害もあるのだが、それはあくまで僕の勝手な事情なので、まあいい。


しかし、その信念を貫き通す部分は、作品の中でも最大の輝きを放つ。
女だてらに、なんて言葉すら思い浮かばないほど、
時に凄まじく、時にぼろぼろになりながらも、
かつての恩人ライザのためにすべてを投げ打つ。
そう、端的にいえば、カッコいい。もちろん、その前には〝とても〟がつく。
クールな女探偵にヒヤヒヤし、何だかとてもおどおどした彼氏になるアティカスにも、
シリーズのファンは「あの無敵のボディガードが…」と、思わずニヤリとするのだろう。
それは、門外漢の僕にすら伝わってくるし、知らなくても何となくニヤリとできる。
ここらへん、たぶんルッカの巧さがもたらす部分なんだろうと思う。


ストーリーのスピード感は抜群、そこそこのひねりも加えてあり、読み応えは十分だ。
講談社文庫のでかい活字とはいえ、700ページ弱を一気に読ませる。
それこそ、〝そこそこ出来のいいハリウッド・サスペンス〟そのものだ。
しつこいが、シリーズ作品を読んでいれば、もっともっと深い感慨もあるのだろう。
一年ほったらかしておいてなんだが、またあらためてシリーズが読みたくなった。

守護者 (講談社文庫)

守護者 (講談社文庫)

しかし、この「守護者」。最近見た書店店頭ではなぜか見つからなかったので、BK1で注文。
シリーズ全部、と思ったら「奪回者 (講談社文庫)」だけないので、こちらはアマゾンにて。
さあ、届いたらどうしよう。
すぐ読まないとまた積ん読になるし、しかし読みたい本は山積みだし…
結局、また本棚をにぎわせるだけ、
という結末だけは避けないと…、と心に刻み込んだのだった。