吉川トリコ「しゃぼん」

mike-cat2005-03-12



檸檬のころ」の豊島ミホとは、R−18文学賞つながり。
ピンク色のカバー。オビには
「少女でもおばさんでもない。ずっとこのまま、女の子でいたい」。
すんません、オンナですらないんですが…、とテレながら購入。
しかし、照れつつも買ってよかった。何だか、とってもいい本だった。


基本的には連作集。
文学賞受賞作の「ねむりひめ」が、一応独立した作品らしい。
セックスに意味を見いだせない、女子高校生ゆかりのお話。
〝愛があればいいってもんじゃないと思う。
 あたしにとってあの行為はただの作業でしかない。
 どうしてだれもがあれに意味をつけようとするのだろう〟
恋人とのセックスに、悩むゆかりの試行錯誤が描かれる。


アレがすごい、友達の彼氏といたしてみたり、
いろんな人といろいろなことをしてみたりする。
どうも、不感症じゃないらしい。
でも、彼との行為においては二人は〝穴と棒〟でしかない。
そんなゆかりが、最後は
廃屋の跡地で穴を掘り続けるオトコとのからみの中で、何かにたどり着く。
そして、ゆかりと彼の関係にも、変化が生じる。


穴の中のオトコ、というのが、なんかの隠喩とかだったりするんだろうが、
ここらへん、僕的には、ちょっとうまく整理できなかった。
だが、ゆかりの〝何となくしっくりこない〟という感覚は、
何だかよくわかるような気がして、なかなかよろしい感じ。
まあ、10代半ばにして、そんなに陶酔の境地に達してもらわなくても、
という気がするが、あんまりうまくいかなくても、
その後のあっちの生活に支障をきたしそうだし、いいのかな、と。


で、その作品以上に印象深いのが、表題作「しゃぼん」を中心とした連作だ。
主人公は30を前に、女であることをやめちゃった花。
同棲相手のフリーター、ハルオの庇護のもと、ぬくぬくと生きることを決意する。
〝もっと太って、肌もキメを失い、醜い体になればいい。
 あんなに必死になってダイエットを繰り返し、
 毎日のエクササイズを欠かさず、
 セルライト防止ジェルでからだ中をマッサージして、
 風呂上がりにはボディローションを塗りたくっていた日々のことが遠い夢のようだ。〟
そのココロはこうだ。
〝どうせいつか、花は枯れてしまう。
 だったらさっさと枯らせてしまったほうが楽でいい〟


パッと聞くと悟りの境地。でも、違う。
ひらたくいうと、モラトリアムなのだ。
〝順調に〟人生が続いていくコトへの不安から、逃避したい。
その気持ちが形として表れての、一連の行動だ。
現実だったら、何を甘えてるんだ、と一蹴したくなるような部分もあるが、
この小説の世界では、不思議とそれも許せたりする。
花の行動をひたすら容認し、現実からスポイルしていくハルオ。
これを親とかがやっちゃうと、世の中にあふれている
〝ヒッキー〟(世間にはあふれていないのか?引き籠もってるから…)の誕生、
なんだろうけど、恋人の立場からのスポイルは、また違う感覚だ。


ハルオの妹、なっちゃんにまで、花は容認されていく。
その徹底した甘さ、がなぜか読んでいて心地いいのが、
この小説の味わいなのだろうか、と思う。
その、花にとっての人生、を象徴するのが、
お風呂だったり、しゃぼんだったりして、
その部分の描写もなかなかリアルっぽいのが笑っちゃうけど、これがなかなか。
花が、自分の感情をうまいこと整理し、人生を受け入れ、
そして、またやりたいことを見つけていく過程が、なるほど納得できる。
何だか、全部イヤになっちゃった時に、
022−022(オー人事オー人事ですな…)にかけるのではなく、
読んでみたい一冊、という、ヘンな感想を覚える。
まあ、いまさらモラトリアムでもなんでもない歳なんで、
そういうケースもないだろうな、とは思うんだが。