難波は千日前国際劇場にて「ロング・エンゲージメント」

mike-cat2005-03-13



古い劇場なんで、やや不安を抱えつつ、だった。
不安的中。ピント、合ってない。
地方の古い劇場ではたまにあるんだが、非常に目が疲れる。
フィルムの交換のトコでも、接続悪し。場面が少し飛ぶ。
最近は機械がよくなったせいか、あんまりこういうことないんだが、
昔ながらのやり方で、それも雑にやってるんだろう。
劇場自体は、古いながらもそれなりにメンテナンスしてるのに、
映写技師の腕が悪いと、全部台無し。
これで同じ料金取られると…、と古典的な疑問に立ち返る。
こういう映画の出来以前の問題が起こるのは、本当に残念。


で、映画のほう。
アメリ」のジャン・ピエール・ジュネオドレイ・トトゥふたたび、だ。
期待するな、というほうがムリというものだろう。
デリカテッセン」以来、ジュネが常に提供し続ける、
華麗なビジュアルと、不思議な世界観。
それを体現するかのような女優の登場で、
前作はシビれるくらいにいい作品が出来上がったものだった。
いや、当初予定通り「奇跡の海エミリー・ワトソン主演だったら、と考えると、
もうこわくて夜トイレに行けなくなるくらいなんだが、それは置いておく。


〝執念の不思議ちゃん〟マチルド=トトゥが、今回追い掛けるのは、
気になる彼氏ではなく、戦争で行方不明になった婚約者マネクだ。
戦死、と聞かされても、納得しない。
死んではいない。その直感に導かれ、マネクを探し求める。
それを支えるのは、
ジュネの映画ではおなじみのドミニク・ピノンをはじめ、魅力的な人物たちだ。
そのキャラクターが、本筋に全く関係のないところで、
濃密に描写されるのも、これまで通り。
その不思議な味わいが、
一つ間違えば、〝イッちゃってるストーカー〟のトトゥを自然に見せる。


今回なんて、戦争の無情さ、無意味さが訴えかけられる一方で、
そこかしこに仕掛けられた、楽しい仕掛けが、
人生の素晴らしさ、なんてのを魅せてくれたりして、
やはり、この監督のセンスの素晴らしさにうならせられる。
デヴィッド・リンチ御用達のアンジェロ・バタラメンディ担当の音楽も絶妙で、
その不思議ワールドは、ますますもって、観るものを魅了していく。
それは、マネクとの思い出を振り返る灯台のシーンであったり、
かつて悲惨な戦闘が繰り広げられた地の、現在の美しい姿だったり、
ラストシーンの美しい風景だったり、
マネクを追い求め、推理をこらすマチルドの頭のなかだったり。
ちなみに、これが一番不思議な世界だったりするのだが。


マチルドの旅の行く先は、果てしなく遠い。
だが、その信じる強い力、は、あらゆる理屈や証拠を乗り越え、
マネクのもとへ、マチルドを導いていく。
その中で明らかになっていく、戦争での苦い現実は、ひたすら重い。
だから、最後のセリフ(未見の人のため、ナイショにしとく)、
そして、マチルドの姿は、とても文学的だ。
とても、印象深い。なるほど、いい作品だ。


だが、なのだ。
確かに、その文学的な終わり方って、けっこうフランス的なのかな、とも思うし、
頭で考えると、非常に納得のできる、というか、
必要以上に示される、悲惨な戦争のイメージ、とのバランスで考えれば、
これがベストだろうな、と、理解できるラストではあるのだ。
だが、こころに訴えてこないのだ。
その理由は、そこまでの120数分の平坦さだ。
部分部分の映像美とか、とても印象的なんだが、それが裏目に出たのかも。
ストーリーの流れの中では、あまりにもそれが独立しすぎているのだ。
ジュネが撮りたいイメージを、とことん追求しすぎたあまりの弊害なのか。
場面場面には、うっとりと見とれるんだが、
本来は素晴らしいラストに向かって、気持ちが盛り上がっていかない。
緩めといた涙腺に、行き所のない涙をため込んだまま、
エンドクレジットを見つめ続るしかなかった。


評価は、と尋ねられたら、かなり複雑な一本だ。
非常によくできたイメージビデオだとは思うが、
物語としての出来は、いまひとつ。
デリカテッセン」以来のファンを自認しているだけに、残念でならない。
期待度高すぎたせいもあるんだろうか…。
劇場からの帰り道。三月とは思えない寒風が、ひたすら寒く感じられた。