加藤裕子「食べるアメリカ人」

大修館書店刊 1600円+税



もはや定説ともなっている、「アメリカのメシはまずい」を、
米国居住経験のある料理研究家の視点から、再検証したコラムだ。
アメリカの料理がまずい理由」から始まり、
ホットドッグやハンバーガーなど、「アメリカンな」食べ物の考察、
食品に対する消費行動、不可思議なダイエット信仰、外食産業の動向や、
アメリカの郷土料理、そして「アメリカンな」日本料理まで、
詳細なリサーチと、実際に食べ歩いた経験をもとに、書き上げた労作だ。


と、ここまで書いたが、そんなに「アメリカのメシはまずい」ですか?
いやもちろん、食べることとかの快楽に血道を上げる、
フランス人とか、イタリア人あたりがいうのはわかる気はする。
事実、まずい店も多いし、外れた時のそのまずさは、並大抵じゃないから…
しかし、よく聞く旅行で訪れた日本人の「アメリカの食事なんて…」みたいなのを聞くと、
ちょっと待ってよ、いいたくなってしまうのだ。


逆に考えてみれば、そんな「日本のごはんはおいしいですか?」と思う。
日本語ろくにしゃべれない人が、観光で日本を訪れて、
よくわからず入った店でごはん食べて、おいしいものなんて食べられますか? と。
観光名所なんかにあるような店で食べようものなら、
耐えられないレベルのものを平気で出される経験は、誰にでもあるだろう。
「そんなトコ、行かなきゃいいじゃない」。そういう指摘もあろうが、
ろくに日本語しゃべれない人は、そういうトコにも入らざるを得ないことが多いだろう。


つまり、あまりアメリカに詳しくない日本人が向こうに行けば、同じような行動を取る、ということ。
それをフランス人とか、イタリア人とかの尻馬に乗って、得意げにいう。
あんまり、いい態度じゃないんじゃないか、と。
第一、フランス人なんて、どこ行ったって食べる前から
「フランスよりは絶対まずい」と決めつけてるんだから、あんまり関係ないのだ。
もちろん、壊滅的なまずさを提供してくれるのは、アメリカが一番多いのも確かなんだろうけど。


そりゃ、ふつうのレベルの日本料理とか、中華なんて食べられたモンじゃないけど、
きちんとしたお金を出して、きちんとしたお店に行けばおいしいのは、どの国だって一緒。
もちろん、その程度が極端なのは認めるけど。
少なくとも、ちゃんとおいしそうな店を見つけて入れば、何だっておいしいものはある。
むしろ、食の選択肢だけで見れば、日本より多いと思うのだけど。
それに、ハンバーガーとか、ホットドッグなどのジャンクフードはもちろん、
サンドイッチにしたって、少なくとも日本のよりはずっとおいしい。
一度向こうで、評判のダイナーやデリで出すサンドイッチ食べたら、
日本の半端ホテルの出すサンドイッチとか、ふざけるな、という気になるはずだ。


スーパーに行けば、異常な数のフレーバーが揃った食べ物の数々。
もちろん、添加物とかでやばいものも多いんだが、
自然食志向を貫こうと思えば、それはそれでたくさんの選択肢が用意される。
僕は基本的にふだんの食事は、なるべく野菜類だけで構成したい性質なんだが、
アメリカは、さすがベジタリアンがたくさんいる国だ。
野菜食、もしくは野菜中心食が、かなり容易にできる。
こんな自由度の高さは、アメリカの食文化の一面でもある。


僕の大好きなファーマーズ・マーケットの魅力なんかにも触れている。
ホテルで料理はできないけど、果物とか野菜を買って食べた時の感激は、
かなりのものだ。それに安いしね。
そして、この本でも取り上げられているアメリカの郷土料理。
もちろん、本場で食べた経験は多くないけど、
少なくとも一部の日本人が勝手にバカにしているアメリカの食文化が、
とても豊かなものだということを思い知らされる。


とはいえ、この本。アメリカの食の矛盾を、指摘することも忘れてはいない。
異常な広告費をかけた、本来必要のない栄養素たっぷりの嗜好品であるとか、
過剰なダイエット志向が生み出す、意味不明な食べ物のこととか。
しかし、それを考慮にいれても、やはり「アメリカのメシはまずい」という定説は、
再考の余地あり、ということは強く認識される。


ま、色々力説してしまったけど、ぼくが以前から考えていたことを、
けっこう裏付けてくれたりする本だったので、かなり楽しい読書にはなった。
このテの本だと、これもお勧め。レシピなんかもけっこう載ってて、楽しめること請け合いだ。

アメリカのおいしい食卓 (平凡社新おとな文庫)

アメリカのおいしい食卓 (平凡社新おとな文庫)