西村ミツル、かわすみひろし「大使閣下の料理人」20巻
「お客さんに気持ちが届く料理が作りたい」。
一流ホテルでの職を捨て、在ベトナム日本大使館の公邸料理人となった、
大沢公の活躍を描いた、味わい深い料理マンガだ。
ベトナム編を終え、現在は遊軍大使となった大使とともに、世界各国へ出向いていく。
この巻では、2代目の助手兼弟子、青柳愛の独立が描かれる。
料理マンガというと、やはり「美味しんぼ」が一番のメジャーものだろうか。
「ミスター味っ子」という人もいるだろうが(笑)
しかし、確かな信念もある一方で、説教臭さや荒唐無稽さが鼻につく
「美味しんぼ」は、もうマンネリ化も極まれりになってる。
その割に単行本は買い続けてるんだが。
それと比べ、この「大使閣下〜」は、
料理への造詣とストーリーのバランスが非常にいい。
未読の方には、ぜひ一読をお勧めしたいシリーズだ。
とここまで書いておいて何だが、ここからが本題。
この巻の巻末からニューヨーク編が始まるのだが、ここで料理界のCIAが登場する。
CIAといったって、材料や勘定をごまかすレストランを調査したり、
裏工作を施して、どこどこのレストランをつぶしてみたり、とかはしない。
CIA=The Culinary Institute of America
「料理界のハーバード」とも称される、アメリカ、もしかすると世界一の料理学校だ。
http://www.ciachef.edu/
CIAについては、実際入学し、取材したジャーナリストがまとめたこの本が面白い。
マイケル・ルールマン「料理人誕生」
どの材料を使うか、どんな技術を用いるか、どう客に売り込むか、
料理をどうサーブするか、いくらで売るか…
レストラン稼業のすべてを、最高の講師陣が、徹底的にたたき込む。
なるほど、この学校を卒業したなら、
体系的な知識・技術・行動理念なんかは完ぺきなんだろうな、と思わせる。
だが、それだけで終わってしまっては、片手落ちだ。
「大使閣下〜」でもCIA卒というだけでふんぞりかえる料理人に、公が言い放つ。
「実際の経験がなければ〜」。おっしゃる通りだ。
体系的な知識や技術に、経験が伴い、さらに新しい技術・情報にどん欲でなければ、
料理人としては、一流料理人としては失格だ。
もちろん、料理の方向性は決して一つではないので、
あくまでこうしたレストランや料亭に限るんだが…
ただ、気になった点があった。じゃあ、経験則だけでやってる人はどうなの?と。
旧来の徒弟制度のもと、徹底的にたたき上げた人間の強みは分かるんだが、
それだけでは、やはり膨らみがない。
もちろん、そこから新しいものを作り出す人はいるが、
それはあくまで個人の素養によるものだ。方法論的な優劣とは関係ない。
そんなわけで色々考えてしまった。
ことは料理人の世界だけじゃないしな。
自分の専攻だった体育科教育学だって、同じことだ。
ほとんどの教員が、自分がやっていた経験則だけで、教えてる。
いや、教えてすらいない。無理やり、やらせてるだけだ。
その上、自分ができなかった経験があまりないから、スポーツが苦手な子に容赦がない。
そういえば、音楽の先生もそんな傾向があるな…
話がだいぶよれてしまった… とりあえず、いいたかったことは、
このCIAが、非常に興味深い学校だな、ということだった気がする。
もうよくわかんない。
料理学校といえば、日本に〝本当の〟フランス料理をもたらした、
辻静雄の生涯を描いた海老沢泰久「美味礼賛」が非常に面白かった。
フランスでのレストラン行脚に、フランスからシェフを招いた講習会での衝撃など、
もう、一気読み間違いのない、傑作だ。
で、感化されて思うこと。料理が好きなんで、料理学校とかすごく行ってみたい。
和洋、エスニックも含め、ある程度レパートリーはあるんだが、
とにかく、コストを考えない料理しか作れないのが最大の欠点だ。
以前も、野菜の炊き合わせ作った時、食べた相手が「おかしい、美味しすぎる」。
金時人参にエビ芋に、京大根を買い込んで、使ったお酒は純米大吟醸…
いや、怒られた。「もったいない! 贅沢しすぎだ」って。確かに、材料費だけでも…
こんな感じなので、学校通って、まともな経済感覚を養う(無理?)とともに、
これまでの経験だけで身に付かなかった技術とか、修得してみたい。
しかし、CIAは年間の学費300万か…。思ったほどじゃないけど、苦しいな。
まあ、「美味礼賛」「料理人誕生」読むと、そんな気持ちがわき上がることは確かだ。
ううん、17か18ぐらいで読みたかった、かも…