西村ミツル、かわすみひろし「大使閣下の料理人」20巻

見学だけでもしてみたい

大使閣下の料理人 (20) (モーニングKC (975))
「お客さんに気持ちが届く料理が作りたい」。
一流ホテルでの職を捨て、在ベトナム日本大使館の公邸料理人となった、
大沢公の活躍を描いた、味わい深い料理マンガだ。
ベトナム編を終え、現在は遊軍大使となった大使とともに、世界各国へ出向いていく。
この巻では、2代目の助手兼弟子、青柳愛の独立が描かれる。


料理マンガというと、やはり「美味しんぼ」が一番のメジャーものだろうか。
ミスター味っ子」という人もいるだろうが(笑)
しかし、確かな信念もある一方で、説教臭さや荒唐無稽さが鼻につく
美味しんぼ」は、もうマンネリ化も極まれりになってる。
その割に単行本は買い続けてるんだが。
それと比べ、この「大使閣下〜」は、
料理への造詣とストーリーのバランスが非常にいい。
未読の方には、ぜひ一読をお勧めしたいシリーズだ。


とここまで書いておいて何だが、ここからが本題。
この巻の巻末からニューヨーク編が始まるのだが、ここで料理界のCIAが登場する。
CIAといったって、材料や勘定をごまかすレストランを調査したり、
裏工作を施して、どこどこのレストランをつぶしてみたり、とかはしない。
CIA=The Culinary Institute of America
「料理界のハーバード」とも称される、アメリカ、もしかすると世界一の料理学校だ。
http://www.ciachef.edu/
CIAについては、実際入学し、取材したジャーナリストがまとめたこの本が面白い。
マイケル・ルールマン「料理人誕生」料理人誕生
どの材料を使うか、どんな技術を用いるか、どう客に売り込むか、
料理をどうサーブするか、いくらで売るか…
レストラン稼業のすべてを、最高の講師陣が、徹底的にたたき込む。
なるほど、この学校を卒業したなら、
体系的な知識・技術・行動理念なんかは完ぺきなんだろうな、と思わせる。


だが、それだけで終わってしまっては、片手落ちだ。
「大使閣下〜」でもCIA卒というだけでふんぞりかえる料理人に、公が言い放つ。
「実際の経験がなければ〜」。おっしゃる通りだ。
体系的な知識や技術に、経験が伴い、さらに新しい技術・情報にどん欲でなければ、
料理人としては、一流料理人としては失格だ。
もちろん、料理の方向性は決して一つではないので、
あくまでこうしたレストランや料亭に限るんだが…


ただ、気になった点があった。じゃあ、経験則だけでやってる人はどうなの?と。
旧来の徒弟制度のもと、徹底的にたたき上げた人間の強みは分かるんだが、
それだけでは、やはり膨らみがない。
もちろん、そこから新しいものを作り出す人はいるが、
それはあくまで個人の素養によるものだ。方法論的な優劣とは関係ない。


そんなわけで色々考えてしまった。
ことは料理人の世界だけじゃないしな。
自分の専攻だった体育科教育学だって、同じことだ。
ほとんどの教員が、自分がやっていた経験則だけで、教えてる。
いや、教えてすらいない。無理やり、やらせてるだけだ。
その上、自分ができなかった経験があまりないから、スポーツが苦手な子に容赦がない。
そういえば、音楽の先生もそんな傾向があるな…


話がだいぶよれてしまった… とりあえず、いいたかったことは、
このCIAが、非常に興味深い学校だな、ということだった気がする。
もうよくわかんない。
料理学校といえば、日本に〝本当の〟フランス料理をもたらした、
辻静雄の生涯を描いた海老沢泰久「美味礼賛」が非常に面白かった。美味礼讃 (文春文庫)
フランスでのレストラン行脚に、フランスからシェフを招いた講習会での衝撃など、
もう、一気読み間違いのない、傑作だ。


で、感化されて思うこと。料理が好きなんで、料理学校とかすごく行ってみたい。
和洋、エスニックも含め、ある程度レパートリーはあるんだが、
とにかく、コストを考えない料理しか作れないのが最大の欠点だ。
以前も、野菜の炊き合わせ作った時、食べた相手が「おかしい、美味しすぎる」。
金時人参にエビ芋に、京大根を買い込んで、使ったお酒は純米大吟醸
いや、怒られた。「もったいない! 贅沢しすぎだ」って。確かに、材料費だけでも…


こんな感じなので、学校通って、まともな経済感覚を養う(無理?)とともに、
これまでの経験だけで身に付かなかった技術とか、修得してみたい。
しかし、CIAは年間の学費300万か…。思ったほどじゃないけど、苦しいな。
まあ、「美味礼賛」「料理人誕生」読むと、そんな気持ちがわき上がることは確かだ。
ううん、17か18ぐらいで読みたかった、かも…