マーク・オブマシック「ザ・ビッグイヤー 世界最大のバードウォッチング競技会に挑む男と鳥の狂詩曲」

mike-cat2008-01-29



“バカか?偉業か?”
米大リーグでマーク・マグワイアサミー・ソーサの、
HR競争“チェイス・マリス”に全米が沸いた1998年。
探鳥界も、とんでもない大記録樹立に沸き返っていた―
いわゆるバードウォッチングをもっと熱烈にした、“探鳥”。
希少種を追い求める、そんな探鳥家(バーダー)たちが、
1年間で目撃した鳥の数を競うのが、「ビッグイヤー」である。
空前の当たり年を迎えた1998年の「ビッグイヤー」に挑戦した、
3人の男たちを追った、最高にエキサイティングなノンフィクションだ。


カネにものをいわせ、貪欲に鳥を追い求めるニュージャージー土建屋
あくまで紳士的に、そして優雅に鳥を数え続ける国際企業の元重役、
そしてフルタイムの仕事を続けながら、カツカツの資金で挑む原発技師。
バラエティにあふれた3人の挑戦は、これまた多彩である。
大陸の東西南北、メキシコ湾にアラスカ、遠洋上の孤島に険しい崖…
誰もが近づきたがらない危険な地域に、ただ鳥を見るためだけに向かう彼ら。
バカか? 偉業か? とは本当によくいったものである。


舞台となる北米の鳥は本来672種だそうだ。
だが、「ビッグイヤー」は700種類台での争いとなる。
では、その差を埋めるのは、というと偶然種や放浪種である。
ハリケーンなどで吹き飛ばされてきたり、迷ってみたり…
そんな気まぐれな鳥を追い求め、北米大陸津々浦々。
バーダー同士で構築したネットワークが情報を流すと、
鳥1羽見るために、全米からマニアが押し寄せるという。
バカバカしくも、最高に熱いまさにオトコのバトルが最高に楽しい。


鳥の名前がやたら登場するので、「あまり鳥には…」なんて人も大丈夫。
ピューリッツァ賞も受賞した作者の、ユーモアあふれる文体は、
鳥の名前を知らなくても、探鳥の世界の魅力を、あますことなく伝えてくれる。
もちろん、鳥の名前でその姿が思い浮かぶ人にはさぞかし…である。
以前「本の雑誌」で見かけて以来、なかなか読む機会がなかった1冊だが、
ここ最近でも、屈指の面白いノンフィクションといっていいはず。
ちなみにあのドリームワークスが映画化権を獲得したとか。
希少種の蘭の花をめぐる世界を描いた「アダプテーション」顔負けの、
目くるめく世界が展開されることを、切に願うのである。
(もっとも、あちらは脚本家チャーリー・カウフマンの不条理世界だが…)