マーク・オブマシック「ザ・ビッグイヤー 世界最大のバードウォッチング競技会に挑む男と鳥の狂詩曲」
“バカか?偉業か?”
米大リーグでマーク・マグワイアとサミー・ソーサの、
HR競争“チェイス・マリス”に全米が沸いた1998年。
探鳥界も、とんでもない大記録樹立に沸き返っていた―
いわゆるバードウォッチングをもっと熱烈にした、“探鳥”。
希少種を追い求める、そんな探鳥家(バーダー)たちが、
1年間で目撃した鳥の数を競うのが、「ビッグイヤー」である。
空前の当たり年を迎えた1998年の「ビッグイヤー」に挑戦した、
3人の男たちを追った、最高にエキサイティングなノンフィクションだ。
カネにものをいわせ、貪欲に鳥を追い求めるニュージャージーの土建屋、
あくまで紳士的に、そして優雅に鳥を数え続ける国際企業の元重役、
そしてフルタイムの仕事を続けながら、カツカツの資金で挑む原発技師。
バラエティにあふれた3人の挑戦は、これまた多彩である。
大陸の東西南北、メキシコ湾にアラスカ、遠洋上の孤島に険しい崖…
誰もが近づきたがらない危険な地域に、ただ鳥を見るためだけに向かう彼ら。
バカか? 偉業か? とは本当によくいったものである。
舞台となる北米の鳥は本来672種だそうだ。
だが、「ビッグイヤー」は700種類台での争いとなる。
では、その差を埋めるのは、というと偶然種や放浪種である。
ハリケーンなどで吹き飛ばされてきたり、迷ってみたり…
そんな気まぐれな鳥を追い求め、北米大陸津々浦々。
バーダー同士で構築したネットワークが情報を流すと、
鳥1羽見るために、全米からマニアが押し寄せるという。
バカバカしくも、最高に熱いまさにオトコのバトルが最高に楽しい。
鳥の名前がやたら登場するので、「あまり鳥には…」なんて人も大丈夫。
ピューリッツァ賞も受賞した作者の、ユーモアあふれる文体は、
鳥の名前を知らなくても、探鳥の世界の魅力を、あますことなく伝えてくれる。
もちろん、鳥の名前でその姿が思い浮かぶ人にはさぞかし…である。
以前「本の雑誌」で見かけて以来、なかなか読む機会がなかった1冊だが、
ここ最近でも、屈指の面白いノンフィクションといっていいはず。
ちなみにあのドリームワークスが映画化権を獲得したとか。
希少種の蘭の花をめぐる世界を描いた「アダプテーション」顔負けの、
目くるめく世界が展開されることを、切に願うのである。
(もっとも、あちらは脚本家チャーリー・カウフマンの不条理世界だが…)