ミナミ島之内は「鯨料理 西 玉水」でクジラ三昧
実は東京へ戻ることが決まったのである。
大阪へ転勤して3年。長かったような、短かったような。
決まってしまうと早いもので、あっという間にいろいろせわしくなる。
で、引っ越し前に大阪の味を、ということで、
鯨料理の本命「西 玉水」へ行ってみることにする。
クジラといえば、以前道頓堀の「徳家」には行ったが、あそこはあくまでカジュアルな大衆店。
鯨料理そのものが元来、大衆料理と考えれば、
それも王道かもしれないが、やはり老舗で食してみたいのが人の常だ。
値段はそこそこ危険な感じだし、カードも不可、ということで、
久しぶりにやや緊張感を味わいつつ、お店に向かう。
宗右衛門町から堺筋をはさんで反対側、
島之内のやや奥まったところに歩を進めると、落ち着いた風情の店が現れる。
のれんをくぐると、板さんの威勢のいい掛け声と、
仲居さんの丁寧な対応が、いい感じで客を迎えてくれる。
このテの老舗にありがちな、無礼な感じは皆無。
心地よく二階の座敷に上がり、コースの内容を訊く。
コースの中身だけで、十分満足できそうな感じだが、
お勧めという鯨カツに、サエズリの湯引きと煮込みを追加する。
まず現れるのは、この店自慢の尾の身の刺身。
ノルウェーから直輸入したというナガスクジラは、
これまで食べたことのある鯨とは、一線を画す印象だ。
一緒に供されるイワシクジラ(こちらもナガスクジラ科らしい)とともに、
口の中で広がる風味は、まさしく獣肉と魚肉の中間といったところ。
思わず「なるほど」ちおうなりたくなるような、そんなお味である。
続いて現れるのが、サエズリの湯引き。
カラシ酢味噌は正直くどい印象はあるが、
この口の中でとろける感覚は、まさしく格別という感じだ。
大豆とともに炊いた煮込みもいい。
おでんなんかで食べると、ホント旨味が身に沁みるサエズリだが、
こうして一品料理として登場すると、また味わい深い。
狩場焼き、はすき焼き風といっていいのだろうか。
肉が鉄板で焼ける音、そして匂い。食欲はますますヒートアップする。
広がる肉汁、鼻に抜けるような豊潤な香り。
「狩場焼き」というのだから、捕鯨の現場での調理法なのだろうか。
肉の熟成を考えると、獲れ立て生がベストかどうかは微妙だが、
さぞかし豪快で、野趣あふれる料理だろうな、と想像は膨らむ。
さて、そしてハリハリ鍋である。
これで3人前なのだが、いかにも豪快な盛りつけ。
肉を彩る粉山椒も、最高潮に達した食欲をそそるいい色合いだ。
さて、鍋奉行登場、と思いきや、鍋の調理は仲居さんにお任せ。
「よそさんでは存じ上げませんが…」
きちんと責任を持って作る、専門店としての矜持といったところか。
茶碗に盛りつけてもらうと、こんな感じになる。
味が深い。
肉が想像以上に小さくなるのにも驚くが、
水菜のハリハリ加減といい、肉の食感といい、さすが、である。
この茶碗1杯では…、というご心配はご無用。
もう一度、仲居さんが調理して、お茶わんに盛ってくれる。
そして、ここで追い打ちをかけるようなダイナマイトが登場。
鯨カツ、である。
ぎりぎり給食で鯨の竜田揚げを食べた世代としては、
それなりに郷愁の漂うメニューだったりもするのだが、そこは専門店。
鯨肉そのものの管理がいいのに加え、
ミディアムレアな火の通り加減が、まさしく絶妙なのである。
ハリハリ鍋が胃に優しいこともあって、ボリューム的にもいい感じ。
ああ、旨い、旨い…と、ひたすら味わう。至福の時である。
食後は柿と、女将さんお手製というお汁粉がいただける。
何でも、季節によって水菓子やお汁粉など、趣向を凝らしているとか。
お心遣い、何ともうれしい限りなのである。
お勘定は、まあだいたい一流どころのフレンチと同じくらい。
値段だけをいえば、まあ「高い」のカテゴリーには入るが、
お味と雰囲気を考えれば、むしろ値ごろ感が際立つ。
粉もんではない、大阪ならでは味を味わい、
心置きなく、大阪を後にできるかな、という気分になってくる。
ま、関西といえば、のまる鍋を食べていないのが心残りではあるのだが…