ジャック・リッチー「ダイアルAを回せ (KAWADE MYSTERY)」
〝殺し屋稼業も楽じゃない〟
「クライム・マシン (晶文社ミステリ)」「10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)」の、
ジャック・リッチーによる最新邦訳短編集。
〝互いの殺人計画を練る夫婦、
謎の行動を繰り返す爆弾男。
夜の探偵カーデュラも登場!
偉才リッチーの傑作クライム・ストーリー15篇。〟
ブラックでシニカル、そしてとびきりシャープな味わいに、
思わずニヤリとしてしまうこと、請け合いである。
冒頭の「正義の味方」。
ショウビズを取り仕切る大ボスと、そのボディガードの物語は、
そのあ然とするような結末で、読む者はもうその世界に浸り込む。
そして「政治の道は殺人で」で繰り広げられる、
殺し屋とその依頼人たちの駆け引きは、あくまでブラックなテイストだ。
「いまから十分間」も、名人芸ともいえるツイストに、うならせられる。
ルーマニアはトランシルバニア地方の、あの伯爵を思い起こさせる、
夜の名探偵、いや、夜しか働かない迷探偵カーデュラも3編に登場。
かのロビン・ヨーントが活躍していた、黄金時代のミルウォーキー・ブルワーズを舞台に、
カーデュラが活躍する「カーデュラ野球場に行く」などもうれしい1編だ。
これまた迷推理が?冴える?、
ヘンリー・S・ターンバックル部長刑事ものは4編。
訳者あとがきによると、「グリッグスビー文書」は、
シリーズの原点ともいうべき作品とのことらしい。
独特の余韻を残す、その結末はやはりリッチーならではといえそうだ。
そんなこんなで、どれもじっくり読んでいきたい、珠玉の15編。
小粋なテイストを、ひとつひとつ味わうのが楽しい1冊である。