シネリーブル梅田で「ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかた」

mike-cat2007-11-26



〝彼女は、世界一のパイを焼く
 ふしあわせな女性(ひと)。〟
吹きだまりのようなアメリカ南部の田舎町を舞台に、
ひとりの女性の自立を描くハートウォーミング・ストーリー。
インディペンデント・スピリッツ賞で脚本賞ノミネートの話題作。
監督・脚本は、これが遺作となったエイドリアン・シェリー
主人公ジェンナの友人ドーンとして、出演もしている。
そのジェンナを演じるのは「フェリシティの青春」ケリー・ラッセル


南部の田舎町でダイナーのウェイトレスをするジェンナの特技は、
バラエティに富んだレシピで人々を魅了するパイ作り。
きょうもパイ目当てに、町の人々がダイナーを訪れる。
そんな才能にあふれたジェンナだが、人生は不幸せそのものだった。
夫のアールは幼稚で、嫉妬深く、そして能無しの男。
そんなアールに酔って押し倒され、望まぬ妊娠を強いられたジェンナは、
いつかアールのもとを逃げだし、パイの店を出す夢も幻となりつつあった。
ある日訪れた産婦人科で出会った優しい医師と不倫に陥っていくのだが―


タルト生地の上に、これでもかとフィリングを詰め込んだ、
アメリカンなパイには、あまり食指は動かない、というのが正直なスタンスだ。
世間でよくいわれる「アメリカの食事はまずい」との評判には、
むしろ反対の立場を取っているが、こうしたスイーツにはちょっと…である。
美味しいレストランで、やるじゃん、という料理を食べた後でも、
デザートで出されるキーライムパイのベタ甘なことといったら…


そんな印象をぬぐえないまま、この作品に臨んだのだが、
この作品の最大の問題は、もちろんそんな部分ではなかった。
むしろ、パイは「こんなアメリカン・パイ」もあるのか、と感心するぐらい。
問題は、女性の自立までのプロセスなのである。
バカな夫に悩まされる女性が、あらたな人生を切り開く。
その基本のストーリーラインには、別に文句はない。


だが、そのバランスが悪い。
この主人公、歯がゆさが限度を超えるほど、
不幸な状況に甘んじているのが、何とも不自然に映るのだ。
自己評価の低い女性にありがちだが、勝手に自分を閉塞状況に追い込む。
ちょっとしたきっかけで越えられる壁すら、越えようとしない。
田舎町でなら、誰でも振り返るような美人が、
こんなに低い自己評価のままで人生を送っているのは、あまりに作為的だ。


だから、あまりに唐突に過ぎるラストのひねりが、
ハートウォーミングを越えて、もうお笑いの領域に入っていってしまうのだ。
もともと微妙な笑いを詰め込んだ映画ではあるのだから、
それもよし、という見方もあるのかもしれないが、
そこに至るまでの不快感を払拭するほどの爽快感はない。
最初からわかりきったストーリーを楽しませるには、
脚本が練れていない、といわれてもしかたがないだろう。
もう少し、泣けて笑える映画かと思ったが、
亡くなったエイドリアン・シェリーへの感傷も、評判に影響しているのか。
多少、過大評価が目立つ作品だったように感じられてならない。