トニー・ロビンソン「図説「最悪」の仕事の歴史」

mike-cat2007-11-17



〝世にも過激なハローワーク!〟
国史上の最悪の仕事を実際に体験するという、
イギリスのテレビ局「チャンネル4」の人気体験番組、
「ザ・ワースト・ジョブズ・イン・ヒストリー」を、
豊富なデータや文献を加え、本にまとめた1冊。
〝反吐収集人、蛭採取者、踏み車漕ぎに王様の御便器番、
 ヒキガエル喰いから死体泥棒……。
 古代から近代にいたる、
 「誰かがやらなければならなかった仕事」をたどったはじめての歴史。
 貴族生活も産業革命も、彼らがいなくてはあり得なかった!
 イギリス裏面史の決定版!〟


ローマ時代から中世、そして近代…
どんな時代においても、存在していた「最悪の仕事」。
きつい、汚い、危険のいわゆる3Kに、低収入、退屈。
およそ関わり合いになりたくない仕事ではあるが、
オビにある通り、誰かがやらなければならない、「必要な仕事」でもある。
この本で取り上げられるのは、
通常はほとんど触れられることのない、そんな裏の歴史の立役者たち。


反吐収集人に糞清掃人、御便器番などの「汚い系」から、
ウミガラスの卵採りや火薬小僧(パウダー・モンキー)などの「危険系」、
ヒキガエル喰いに蛭採取者、シラミとりなどの「おぞまし系」、
財務府大記録の転記者に焼き串少年(スピット・ボーイ)の「退屈系」などなど、
ちょっと想像するだけでも、だいぶげんなりしそうな仕事ばかり。
各時代ごとの「この時代最悪の仕事」を読んでいくと、
つくづく健康だの、人権だのという言葉は、新しい概念であることがわかる。
すべての時代を通じての最悪の仕事に選ばれた皮なめし人(タナー)は、
悪臭に健康被害などなど、3Kの粋を集めた、大変な仕事である。


ローマ時代の奴隷のように、選択権などなく強いられる仕事から、
中世における仕事の複雑化、専門化の中で生み出された職業まで、
それぞれの時代背景が色濃く反映している部分も、興味深い。
一体何の目的で? なんて思ってしまう「ヒキガエル喰い」だって、
ペストの流行に加え、コマーシャリズムのはしりが、その背景にある。
健康不安に対し、画期的な治療薬をアピールする、エキシビション
なるほど「最悪の仕事」の歴史は、まさしく社会史の一面なのである。


いわゆる「最悪の仕事」にいれるのは異論もあるだろうが、
カストラートに関する記述は、ちょっと衝撃的である。
高温を維持するための去勢、その手術の様子は、
読んでいるだけで何だか下半身に不気味な違和感が漂ってくる。
詳しくは書かないが、何しろ、まずは手で揉み潰すのである。
精管を切断する器具の写真も載っているが、見ただけで気絶しそうな代物だ。


そんなわけで、読んでいる間中ずうっと、
身をよじりたくなるような衝動に襲われ続ける。
なら、読まなければいいのだが、そこはそれ、怖いもの見たさである。
ホラー映画的な恐ろしさと、社会史的な興味深さが混じり合う。
話のタネに読んでおいて損はない、そんな1冊ではなかろうか。